雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 賭けと鬼事-03-出茂side


『じゃあ、よーいどん!』

軽やかに地面に降り立った秋月は、挑発するように俺の横をするりと抜けて行く。はっ、と我に返って手を伸ばすが秋月を掴むことなく空を切った。

「ちっ、くそ!」

私の意見も聞かずに勝負と言う名の鬼事を始めた秋月に舌打ちを打つ。まったく、これだからこの学園の事務員は!
慌てて追いかけて森の中に入るが、もうすでに奴の姿はない。だが気配は感じる。いつもより駄々漏れの気配にカチンときた。そんなに私は劣って見えるのか。馬鹿にするのも大概にしろ。

思いっきり地を蹴って全力で追いかける。どこまで行こうと言うのか、秋月はまるで遊ぶように森の中を駆けていく。

「…なんでだ…っ…!!」

なんで、なんで、こんなにも全力で追いかけているのに距離が縮まらないんだ。むしろ私と秋月との距離は広がっていく一方で。

悔しい、悔しい、悔しい!
私は誰よりも優秀なんだ。実力もあって、武芸にも秀でていて、非の打ち所が無い。そんな優秀な忍なんだ。だから、秋月に追い付けない訳がない。捕まえられないはずがない。小松田秀作に負けるはずがない。

秋月が止まったの感じて、私はさらにスピードを上げた。どうしても捕まえたくて。でも、

「ーーーっつかまえたぁあああああ!」

あと一歩で敗けた。
悔しかった。小松田秀作に勝てなかったことも、秋月に追い付けなかったことも。何もかもが悔しかった。
秋月は、この勝負どちらが勝つかは分からなかったと言うが、きっと心のどこかでは知ってたんだと思う。俺が敗けることを。

自分で言うのはあれだが、人望が無いことはわかっている。自分の性格故に嫌われやすいことも。
ふと思った。秋月も私のことが嫌いなのだろうか。だからこんな勝負を仕掛けてきたのだろうか。

「なあ、……お前は、」
『はい?』
「…………お前は、俺をどう思ってるんだ。」

不思議そうに目をぱちくりさせた秋月に聞かなければ良かったなんて思ったが、次の言葉に私はほっと息を吐いた。

『嫌いではないですよ?』
「……そうか!」

好きでも無いけど嫌いでもない。つまりは普通。
人から嫌われやすい私からすればそれだけで充分だった。

さて、秋月と一緒に学園に向かおうか。
敗けたら、小松田秀作に「参った」と言う秋月との約束だからな。



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