雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 賭けと鬼事-01-


ぐっと青い空に向かって伸びをする。
なんて清々しい日だ。こんな気持ちの良い日には何事もなく残業もなく終わりたい。……なんて、いつも言ってる気がするな。しかし、学園の門前に現れた彼が帰らない限り、俺の仕事は終わらないようである。

『こんにちは、出茂鹿さん。』
「……っお前!」

塀に腰掛け声をかけてみれば、出茂鹿さんはお化けを見たかのように目を真ん丸にしていた。酷いな、気配を消して近づいただけなのに。

『今日はいったい何の御用ですか?出茂鹿さん。』
「出茂鹿じゃない!出茂、鹿之介だ!!」
『ふふ、知ってます。』
「はあ!?知ってて何でちゃんと呼ばないんだ!」

反応欲しさに、何て言ったら出茂鹿さんは茹で蛸のように顔を真っ赤にして怒るんだろうな。ちょっと見てみたいかもしれない。

…さて、冗談はさておき。
今回も小松田さんの事務員の職を奪うために来たんだろう。懲りない人だ。でも、諦めが悪い所は褒めるべき点ではある。
忍に限らず、生きているかぎり、諦めない姿勢こそが己の生死を分ける事に繋がるのだから。

『あ!生憎、入門表持ってないんですよ。小松田さん呼んできましょうか?』

今は学園長の庵の庭を掃除している彼の元へ行こうとすれば、出茂鹿さんが「待て」と止める。あれ、中に入るんじゃないの?入門表書かないと地の果てまで追いかけてくるし、何より掃除が俺に回ってくる。流石にそれは面倒くさい。

「………お前は、」
『はい?』
「…っいや、何でもない。…と、とにかく、小松田秀作と勝負させろ!」

またですか。
いつも学園に来ては、小松田さんに張り合って自分の実力を見せつけている。が、その度に俺の仕事が増えてるのは言うまでもない。へっぽこ事務員のお陰で慣れてるとは言え、迷惑なんだ。

という訳で、学園内で勝負はさせたくないな。ええ、私的な理由ですよ。悪いか。そうだ、良い事を思い付いた。

『じゃあ、俺を捕まえてください。』
「は?」
『勝負、したいんでしょう?なら俺を捕まえてください。』

意味がわからん、といった顔をする出茂鹿さんに俺は大きなため息を一つ吐いた。すると、「俺を馬鹿にしただろう」と下で声を荒げて騒ぎだした。本当、賑やかな人だ。

『今から俺は出門表にサインせずに学園の外に出ます。するとどうなるか分かりますよね。』
「小松田秀作が追いかけてくるんだろう?」
『そう。なので俺は逃げさせてもらいます。で、どちらが俺を早く捕まえられるか。それを勝負するんです。面白そうでしょう?』

にやり、と笑った出茂鹿さんの顔はとても楽しそうだった。

『出茂鹿さんが負けたら小松田さんに「参った」と言ってくださいね。』
「俺が勝ったら?」
『そうですね、俺の事務の座を渡すということを考えても良いですよ。』

くすくす笑えば出茂鹿さんはきょとんとしていた。普段からそういう素直な反応ならもう少し好かれるかもしれないのにな。



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