雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ どんぐりの背比べ-03-


『あ、伏木蔵ありがとな。』
「いえー。蓮夜さんの殺気、とても痛くてすっごくスリルでした〜。」

るんるんと何故か喜んでいる伏木蔵を地面に下ろせば、クラスメイトを見て泣きすぎだとあっけからんと笑っている。伏木蔵はこういう子なのね。お兄さん改めて心得ました。

「それにしても一瞬誰だか分からなかったよ。」
『すぐ見破られましたけどね。』

でも見破ってくれて良かった。だって雑渡さんと戦闘とかしたくないし。現れた瞬間、雑渡さんのお気に入りである伏木蔵を人質役として選んだことを後悔したもんな。蛇に睨まれた蛙の気持ちが痛いほどわかった。眼光が鋭すぎて射殺されるかと思ったよ。

「で、なんであんな状況だったの?」
『あー、みんなが堂々巡りの喧嘩をずっとしてたので。』

実技でどちらが優秀なのか。
俺は分かりやすいように、実際その状況を作り出した。その状況下で一体今の自分にどれほどの事ができるのか自覚させるために。結果は見ての通り散々だった。い組ろ組関係なく。伏木蔵はすごく楽しんでたけどね。

「なんか意外だね。」
『何がです?』
「忍たまには、と言うか下級生には特に手荒な方法使わなさそうだからね。」

まあ、あながち間違いではないけど。
優しくすることも大切だけど、厳しさも必要でしょう。優しくするだけじゃ生き抜けないから。その為なら手荒な方法だって取る。たまにはね。
すると、それでこそ蓮夜くんだよね、なんて雑渡さんにくすくす笑われた。なんでた。

『さて、』

少しトーンを落とす。足元にくっつくろ組の子達の肩に手を置き、座り込むい組の子達をすっと見据えれば、みんなあからさまに肩をびくりと震わした。
うーん、自分でやった事だけどそんな恐がられたら流石にへこんじゃうよ俺。でも、今日は珍しく厳しくいこうか。

『喧嘩の結果はどうだった?俺の殺気を浴びて尚、動けた人はこの中にいたかな?実技とは何も相手を倒したり、武器を上手く扱うだけじゃない。冷静に物事を判断し、その状況をうまく打破することも大切だ。巻き込まれ体質のは組に比べて皆は明らかに経験が少ない。それもまた良し。ただ、実戦に出た時に経験差が出るのはわかるな?その差を少しでも埋めるのは何だと思う。……訓練だ。お互いを卑下しあう前に、喧嘩をする前に、それをもう一度考えて見れば良かったんじゃないかな?互いに実力はどんぐりの背比べ同然だ。分かっているからこそ、図星を突かれたからこそ、堂々巡りの喧嘩になってしまった。何も喧嘩することが悪いとは言わない。高め合う事にも繋がるしね。でも、途中で冷静に考えてみれば、これが意味の無い喧嘩だと気づけたはずだよね。伏木蔵はわかっていたよ。だからこそ、喧嘩に入っていかなかった。』

プライドが高いのも良し。素直なのも良し。でもそれだけじゃ駄目。冷静に物事を見極められなければ、全ては価値の無いものに成り下がってしまう。
その点、自意識過剰だと言われ続けている滝夜叉丸や三木ヱ門は、判断もできて自分にも厳しいので上級生達や教職員にも苦笑で流してもらえるのだ。

『俺は、皆はやれば出来る子だって知ってる。普段頑張っていることも。だからこそ、意味のない喧嘩で互いを傷つけあって欲しくないんだ。傷つけあうのではなく、高め合う。負けないように喰らいついていくんだ。』

できるかい?と問かければみんな力強く頷いた。さっきまでの涙や恐れはどこかに消えたらしく、顔には元気が戻ってきていた。

『怖がらせてごめんね。』

優しく笑えばみんなが首を千切れんばかりに振った。

「蓮夜さんが謝ることなんてないです。」
「……すいませんでした。」
「僕達が悪かったんです〜。」
「怒られてわかりましたぁ…。」
「「「ありがとうございます!」」」

にこり笑ったみんなの顔はこれからのやる気に満ちていた。うん、良かった。
伏木蔵はというと、雑渡さんと手を繋いで眩しいくらいのキラキラの目で俺を見ている。何故だろう視線が痛いな。


***


元々手裏剣の練習をしていたい組の子達に混ざって、ろ組の子達も一緒に和気あいあいと練習を始めた。ふふ、微笑ましい眺めだ。

「ねえ、蓮夜くん。タソガレドキで新人教育しない?」
『……しませんよ。』

懐から取り出した水筒のお茶を飲みながら俺を勧誘してくる雑渡さんは今日は一体何をしに来たのだろうか。帰る気配が見えないぞ。

「えー、給料弾むよ。」
『行きませんってば。ここが好きですから。』
「……ざんねん。」

その時、誰かが的を外した手裏剣がこちらに向かって飛んでくる。指で挟んで取ればみんなが走ってこっちにきた。

「蓮夜さん、すいません!!!」
「け、怪我無いですか〜!?」
『ふふふ、大丈夫。』
「あの、ちょっと練習みてもらってもいいですか!?」
『いいよ。』

みんなに手を引っ張られ歩く俺を優しく見守る雑渡さんがぽつりと何かを呟やいたが、い組やろ組の子達の笑顔に癒やされていた俺は気づかなかった。

「………君が来たらタソガレドキ忍軍はもっと強くなるだろうになあ…本当に残念。」




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