雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ いきものがかり-03-


気配に敏感な俺でも流石に虫の気配なんてものは分からない。て言うか普通に考えて、この世に分かる人なんているのか。あ、雑渡さんならもしかして分かるのかもしれないな。あの人は予想以上の規格外だから。
なんて馬鹿らしいことを考えながら学園内を風のように走り抜ける。

『毒虫は月牙の方が見つけるの早いよな、きっと。』

あの子の目と鼻は凄く利くし。でも朱華も負けてないよな。目が良いから遠く離れた地上の小さな獲物もすぐに捕まえてくるし。何が言いたいかと言うと、とりあえず俺の家族は素晴らしいてことだ。親バカでも何とでも言ってくれて結構。本当に凄いからね、うちの子は。

『あ、』

ふと視界に入ったのは見覚えのある形の真っ黒な影。……俺ってやっぱ"あたし"の時とは違うんだな。だって"あたし"ならあんな一瞬しか見てない場所の小さい影なんて見逃してしまう。
足を止めてその影に近づいていけば、やっぱりそこにいたのは捜索中である生物委員の可愛い可愛い毒虫だった。

『一匹、……じゃなかった。』

その近辺には八、九匹の毒虫が脱走と言う名の散歩を楽しそうに満喫していた。いやはや団体行動とは探す手間が省けた。用意していた虫籠に一匹ずつ優しく丁寧に入れてやる。もう脱走するなよ、と言う願いも込めて。たぶん無理だろうが。

と、そのとき近づいてくる気配に振り向けばそこには蛞さん捜索隊の喜三太と三治郎と虎若がちょこちょこと走って来ていた。

「蓮夜さああん!!!」
「帰ってきてたんですね!」
「おかえりなさーい。」

にこにこ笑う彼らの手には蛞さん捜索の勲章とも言えるべたべたした液体がついていた。……うん、お疲れさま。

『八左ヱ門から聞いたよ。蛞さん達はみんな見つかったか?』

すると喜三太が眩しいくらいの笑顔で元気よく返事をした。それなら良かったんだけど。あとは毒虫とジュンコだけか。そう時間はかからないだろうな。

『3人も一緒に毒虫探してくれるか?』

俺も側にいるし、よくは組は毒虫捕獲に駆り出されたりしてるし扱いは問題ないだろ。すると彼らは至極当然のように返事をする。全く頼りになるなあ。

ガサガサと草むらを掻き分けたり、石を裏返したりと喜三太や三治郎、虎若が目の前ではしゃぎながら毒虫を探す光景は只今絶賛俺の癒しだ。なにこの子達、どんなことでも遊びや楽しみに変えれるなんて凄すぎ可愛すぎだ。
微笑ましく3人を見ながら俺も辺りをくまなく探していると、目当てではないが孫兵の探し人……ではなく探し蛇が視界の端に入った。

『あれま、こんなとこにいたのか。』

ジュンコ、と呼べば彼女は俺に気づいたのかしゅるしゅると近づいてくる。手をそっと出せばすぐに巻き付いてきて小さく鳴いた。ああ、ここにも癒しが。と言うより学園全部が俺の癒しだ。ふふ、と自然と笑みが溢れる。
裏々々々々々山からの全力疾走の疲れなんてどこかにぶっ飛んでいってしまったな。

「蓮夜さーん!」

声をかけられ振り返ってみると、嬉しそうに手招きをする3人組。ジュンコを首に巻いてからそこに行けば散歩を楽しむ毒虫達がたくさんいた。

『流石、仕事が早いな。』

くしゃくしゃと頭を撫で回せば、彼らはへへへと笑う。この学園には癒ししかないな、うん。
ピィーと聞こえた家族の声に空を見上げる。あちらも粗方見つけたらしい。俺も指笛で答えれば朱華と月牙、そして生物委員会達の気配が近づいてきた。

「ジュンコぉぉおぉおぉ!」

一番乗りはやはり孫兵だった。

『ほらほら叫ばないの。ジュンコが吃驚するだろ。』

孫兵の叫び声が大きすぎてジュンコが一瞬ビクッと跳ねたのを俺は見逃さなかったよ。まあ、お互いいちゃついてるから問題は無いのだろうけど。

『あ、八左ヱ門これ。』
「すみません、ありがとうございます。」

孫兵の後ろからわらわらと集まってきたみんなの手には虫籠があってその中には大量の毒虫が入っている。今手渡した籠の中のモノと合わせて全部の捕獲が完了したようだ。

「半分ほど月牙と朱華が見つけてくれたんです。」

ありがとうな、と八左ヱ門が月牙と朱華を優しく撫でる。するとそれに答えるかのように体を擦り寄せて鳴いた。
流石、俺の自慢の家族。でもいつの間にそんなに仲良くなってたんだ。特に月牙。嬉しいんだけどなんか寂しい。あれだ、親離れした子供を見てる気分だ。

『まあ、何はともあれ毒虫も蛞さんもジュンコも見つかって良かったよ。』

にこりと笑うと、生物委員のみんなと喜三太はありがとうございますともう一度頭を下げてきた。
孫兵は挨拶しながらもジュンコといちゃついてたけどな。



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