雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ いきものがかり-02- 八左ヱ門side


「あー、もう何処行ったんだよ。」

ガサガサと草むらを掻き分けて目当てのものをくまなく捜す。だが奴等はすばしっこい上に体も大きくない。つまりはかなり捜索が難航しているわけで。

「毎度毎度勘弁してくれよな。」

無意識の内にため息が溢れた。まあ真夜中に脱走されるよりはまだマシか。西に傾き出した太陽に向かってもう少しだけ顔を出しといてくれよ、と心の中で頼んだ。

ふっ、と揺らいだ草に俺はばっと顔をあげる。獣並みに鼻がいいのは生まれつき。そして気配に敏感なことも。ただ、こんなにもすぐに反応してしまうのは彼だからなのかもしれない。
彼の気配、と言うより彼の家族の気配と匂いが風にのって俺に届いた瞬間、俺は門に向かって走り出した。……頼りすぎなのも自覚しているさ。

彼の近くまで行けばすでに隣に人がいた。それは学園のサイドワインダーこと、小松田さん。流石、あの人も感知が早い。あれでもう少しいろんな素質が備わってたら凄い忍になれるのになあ…。
彼の名を呼べばすぐに何かを察知したのか、どうかしたかとすぐに聞いてきてくれる。ああ、そんな優しい顔しないでくださいよ。迷惑だとわかっていてもどうしても頼ってしまうじゃないですか。

「それが………、ジュンコは行方不明で、毒虫は脱走してしまって、おまけに喜三太の壺が割れて蛞蝓達も脱走中です。」

すみません、と眉を下げれば蓮夜さんはきょとんとしたあと小さく笑った。うん、なんとなく考えてることはわかります。伊作先輩達に負けず劣らず、てことですよね。あれか、不幸って移るのかな。

『今は誰が毒虫担当で捜索に当たってる?』

毒虫は木下先生と一平と孫次郎と僕。危険性が無い蛞蝓達は三治郎と虎若が喜三太と共に回収に回ってる。特には組は蛞蝓に慣れてるし仕事も早いだろう。孫兵はジュンコ探しでそれどころではないし、まあ妥当な人選だと思う。
蓮夜さんも人選にたいしては特に問題なしと思ったのか頷いた後、すぐに口を開いた。

『よし、朱華は上からジュンコを探して。月牙は足元の毒虫をよく探して。』

そこまで言って蓮夜さんははっと目を開いた。そしてすぐにしゃがんで真剣な顔付きで月牙を覗き込んだ。

『いいか、分かってると思うけど毒虫食べちゃ駄目だからな、お腹壊すし。』
「おほー、お腹壊すか否かが問題なんですね。」

まさかの言葉に思わず突っ込んでしまった俺は悪くない、と思う。あんな真面目な顔してお腹壊すから、ってなんですか。不意打ちです。イケメンの無駄遣いですよ。ああ、イケメンと言うのは容姿端麗であったり格好いい人を指すのだと前に蓮夜さんに教えてもらった。使い方は間違ってないはず。

自分は全体を見て全てを探すから、と言ってくださった蓮夜さんは家族達と俺に号令をかけて俺の前から一瞬で姿も気配も消した。本当に凄い腕の持ち主で素晴らしいお人だと思う。



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