▼ いきものがかり-01-
足元には月牙。頭上には朱華。
森を切るように駆け抜けた俺たち家族は、見えてきた馴染みの場所に向けて一気にまた速度を上げる。最後の障害物、学園の塀を飛び越えたところで、俺達はその足を止めた。
『ふう、』
散歩ついでに行った裏々々々々々山からの全力疾走。それでも疲れを見せない俺の家族はまだまだ余裕そうだ。なに、どんだけ優秀なんだ。俺なんて必死だったたのに…。
「蓮夜くぅううぅん!!」
『あ、来た。』
遠くの方から砂ぼこりをあげながら走ってくるのは同じ事務員である小松田さん。流石、学園のサイドワインダー。探知が早い。
「おかえりー!裏々々々々々山まで行くって聞いてたからもっと遅いと思ったけど、やっぱり蓮夜くん達の足は早いねぇ。」
僕も蓮夜くんみたいに凄い忍者になりたいなー、なんて本人を前に堂々と言う彼に俺は照れ臭くてポリポリと頬を掻く。そのとき、
「蓮夜さーん!!」
小松田さんとは逆の方向から手を振りながらこちらに向かって走ってきたのは生物委員長の八左ヱ門。ああ、あの顔は何かあったな、うん。
「お帰りなさい、蓮夜さん。」
『おう、どうかしたか??』
それがぁ、と話し出した八左ヱ門の話を聞いていればいつも通りの展開だった。
まずジュンコが行方不明。……恐らく散歩だと思われる。孫兵が必死で探してるみたいだからまあ見つかるだろう。見つからなかったとしても、ジュンコは賢いから夜には帰ってくるし。
お次に生物委員の毒虫が大脱走。本当にどんだけ脱走するんだよ、奴等は。もう今月2回目だぞ。毒を持ってるから捕まえる俺たちは大変なんだからな。
そして最後に、……喜三太の蛞壺が割れて蛞さん達が大脱走。
え、もうこれは保健委員並みの不運じゃない?大丈夫か生物委員会。しょうがない、とりあえず手伝うとするか。
『今は誰が毒虫担当で捜索に当たってる?』
「毒虫は木下先生と一平と孫次郎と僕で、蛞さん達は喜三太と三治郎と虎若で動いてます。」
孫兵はジュンコで手一杯だもんな。人手はちょっと足りないが、まあ俺は全体を見ながら動くか。
『よし、朱華は上からジュンコを探して。月牙は足元の毒虫をよく探して。いいか、分かってると思うけど毒虫食べちゃ駄目だからな、お腹壊すし。』
「おほー、お腹壊すか否かが問題なんですね。」
そりゃそうでしょうよ。奴等が持つ毒に殺られるほど柔じゃないよ、うちの子達は。それに数が減ったら諸々困るだろ。主に忍務の時に。
『俺は全部を探す予定でいくから。』
「……すみません。」
しょぼんと項垂れる八左ヱ門の頭に垂れた犬の耳がついているような錯覚になった。なに、可愛いんだけど。さすが生物委員長。俺もう全力で頑張っちゃうわ。
『それじゃあ……散!』
ちりぢりに消えた家族達に、俺は頑張るかなと軽く首を鳴らした。
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