▼ 新たな家族-03-
自力では走ることのできない狼を抱いて俺達は学園への道を急いだ。
学園の門を叩けばすぐに出迎えてくれた小松田さんは、俺の腕のなかにいる血だらけの狼と、腕から出血している俺を交互に見たかと思うと「わーっ!!」と大騒ぎした。
騒ぎを聞き付けた教職員や上級生達が集まったかと思うと、あれよこれと言ううちに俺と狼は保健室に運ばれ、朱華は飼育小屋に帰された。案の定、保険委員と新野先生からはきつく怒られた。最後の方はどんな無茶の仕方だ、と呆れられたけれど。
狼のあの子はやはりまだ完璧には忍、というか人間に心は許していないらしく他の者達が触れようと手を伸ばせば低く唸って威嚇する。まあ、それでも手当だけはさせてくれたから良しとしよう。
それと学園長先生があの子の傷が良くなるまで、俺の部屋での療養を許可してくれた。もう、学園長先生大好きだ。
『ふふ、寝顔可愛いーな。』
隣で気を抜いてぐっすりと眠ているこの子の頭をそっと撫でた。身動ぎはしたものの起きる気配は全く無い。それだけ心を許してくれていると言うことだろう。
あのとき、血や泥で汚れていた彼の体を拭いてあげれば、姿を現したのは美しい銀色の毛並みだった。
あまりにも美人な子に八左ヱ門が触りたくてうずうずしていたが、結局俺以外には威嚇していたため一回も触らせてもらえず肩を落としていた。
『いずれこの子だってみんなに慣れるさ。』
「まあ、そーでしょうけど。でも、やっぱり綺麗な子だったし触りたかったなあ。ーーーあ、そういえば名前は決めたんですか?」
『ふふ、当たり前だろ?』
ぼんやりと思い返していれば、不意に目の前の子がそっと瞼を開けた。俺がすぐ側にいることを確認すれば、小さく鳴いて顔をぺろっと舐めた。
『ふふ、』
嬉しそうに俺の腕の中に身をくぐらせてきたことに、自然と頬が緩む。ああ、本当に。
『ありがとう、俺の家族になってくれて。』
俺と朱華と君と。
これからもずっと一緒。
『よろしくな、ーーー 月牙。』
prev / next