雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 新たな家族-02-


肩に乗っていた朱華を安全な木の上に行くように指示する。そして、飛び退いた時に反射的に手にしてしまった苦無を地面に投げ捨て、俺は前を見据えた。
殺気を消し構えを解いた途端、狼はかなりの勢いでこちらに向かって突進してくる。俺は、これからくるであろう衝撃と痛みに、歯を食い縛った。

『ーーーーっ!!!』

駆け巡る鋭い痛みの次に、背中にくる衝撃。押し倒され、左腕にがっつり噛みついている目の前の狼を正面から見据える。その瞳に写るのは虚しさと恐怖と失望と拒絶。ああ、この子は………。

空いていた片方の腕で、優しく首もとに手を回してそっと抱き締めた。もういいよ。平気だよ。俺は君を受け入れる。

『………大丈夫。』

ぼそっと呟いた言葉はこの子にちゃんと聞こえたらしく噛む力が少し弱くなった。

『ーーー大丈夫だよ。……ね?』

今度こそ心に届いたのか、今まで掛かっていた圧が左腕から無くなった。そして俺の上から退いた狼は出血している腕をじっと見つめていた。
上体を起こしてそっと手を伸ばせば、一瞬ビクッと体を震わせたが頭を撫でさせてくれる。すると、するっと俺の懐に入ってきて流れ出る血を舐め出した。ふふ、と先程とは打って変わった狼の様子に思わず笑みが溢れる。この子の心を少しは溶かせたみたいで俺は嬉しくなった。

『俺は蓮夜。君を傷つけた者と同じ忍だ。それでも……。』

これは、俺のただの勘。だが確信はあった。この子は恐らく忍狼だ。なんらかの理由で主であった忍に捨てられた。瀕死の傷を負わされて。だからこそ、無理だと思った。心は溶かせたとしても俺と共に来てくれることは無いだろうと。それでも淡い期待を抱かずにはいられなかった。

『それでも、ついてくるかい?』

朱華がこの子のことを気に入っていたから共に来てくれれば、なんてただの言い訳だ。例え、この子が俺と来ることを拒んでも傷が癒えるまではこの場所に通うつもりだけれど、俺自身もこの子のことを気に入ってしまったから問わずにはいられなかった。

じっと狼は俺の瞳を見つめる。一体どれぐらいそうしていただろうか。しばらくしてから、クゥンと小さく鳴いて俺の頬をぺろりと舐めた。

『っ!! 〜〜〜ありがとな!!』

様子を見ていた朱華もこの子が共に来てくれることを知り、嬉しそうに鳴きながら俺達の上を旋回した。

よし。そうと決まれば早く帰らなくちゃな。俺達の学園に。



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