雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 新たな家族-01-


連なる山々に太陽が隠れていく。
空だけでなく辺り一面が朱に染まったような綺麗な夕焼けに、寝転んでいた俺はゆっくり起き上がった。

『そろそろ帰るか……。』

指笛を吹けば、すぐに遠くのほうから朱華がばさばさと飛んでくる。その光景に思わず感嘆の声が漏れた。
朱華の色と空の色。
互いの色があまりにも溶け込んでいて、それでいて夕陽の輝きを浴びてキラキラと光る朱華の体は神秘的で、まるで1枚の絵画を見ているようだった。

『ふふ、朱華ってば本当綺麗。』

腕に止まった朱華を撫でてあげれば、彼は甘えるようにすり寄ってくる。ああ、本当に綺麗で麗しくて愛おしい子。

『学園に帰ろっか。』

もう少しだけ朱華との時間を堪能したかったけど、そろそろ夜が来るからね。


***


やっぱりと言うか、わかってたことだと言うか。学園に帰る途中に日はすっかり沈んでしまい、辺りは真っ黒な闇に覆われてしまった。
いやあ、ちょっと遊びすぎてしまったかな?なんて思ったが、久々の丸一日の休暇を朱華と一緒に狩りやら何やら出来たので悔いは全く無いんだけれど。

先程より少し駆け足で学園へ向かう。
周りに一切の気配が無いのを良いことに、体を思いきり動かしたくなった俺は後方抱え込み宙返りや側方宙返りなど……まあ、俗にアクロバットと言われる動きを取り入れて軽々と木から木へと飛び移る。無駄に動きが多いとか言うなよ。前世でさんざん憧れたからなあ。だって格好いいだろ?今ではプロのレベルをとっくに越してると自負しているのだが、周りに規格外がいすぎて何とも言えない。

まあ、それはいいとして。
学園まであと半分ほどと言う所まで戻ってきた俺は、鼻に届いた鉄のような臭いに顔をしかめた。

『………血…?』

足を止め地面に降りた俺に倣うように、朱華も近くにある木に止まり一声鳴いた。俺は鼻を掠める血の臭いに集中してゆっくり足を進める。そして、だんだんと強くなる臭いに少し眉を寄せた。人だろうか、それとも獣か。どちらにしても相当な深手であることは充満する血の臭いではっきりわかる。

少しだけ開けた場所に出れば、奥の木にもたれ掛かる黒い影が見えた。気配を消し、なるべく遠くの方から目を凝らしてみればそこにいたのは人、ではなく狼だった。
悟られないように少しずつ近づいていく。目の前まできても何も反応もしない狼に、もう手遅れだったかとそっと触れた。

『…っ!』
生きてる。

まだ小さく脈打つ心臓に俺は慌てて着ていた装束を破き包帯のような細長い1本の布にした。
普通なら見捨ててた。そう、普通なら。ただ、朱華が襲わずに狼に寄り添っていたから。これだけ瀕死の生き物を見たら、俺が制止しない限り迷わず襲うであろう朱華が、何もせずそっと寄り添っていたから。だから助けようと思った。

未だにドクドクと流れる血をなんとかしようと、包帯を巻いて圧迫して止血する。とその時、ピクリと動いた狼に俺は咄嗟に手当てを止め距離をとった。
……やばい。

意識を取り戻した狼は、ぐるるると低く唸りこちらを警戒している。
たとえ俺が危害を加えていなくても、今彼の目の前にいる人間は敵と見なされる。何故なら重症を追わせたのは同じく人間だから。傷を見れば獣同士で争ったのか否かはすぐわかる。あれは刀傷だった。それも恐らく侍が持つものではなく、我々忍が持つ忍刀での刺し傷。同じ匂いを持つ俺は彼にとっては敵でしかない。
暗闇の中、ぎらぎらと光る目に俺はどうしようかと頭を抱えた。手負いの獣ほど怖いものはない。でも……。

大丈夫大丈夫。俺は決めたんだから、この狼を助けるって。男に二言はない。


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