▼ 不法侵入常習犯-03-
お茶を飲んでしばらくすれば、雑渡さんはいつものように伊作や伏木蔵に会うために保健室に向かっていった。本当自由な人だ。
俺は雑渡さんが使った湯飲みをいそいそと片付けはじめる。そして新しい湯飲みを2つ用意した。これから来る苦労人達のために。
雑渡さんが学園に来てから四半刻も経たないうちに2人はやって来た。若干、疲労の色を顔に浮かべながら。
「……失礼する。」
天井からぼそりと声が聞こえた後に、彼らは部屋に降り立った。しかし今日は珍しいな、この2人が来るなんて。
『おや、今日は尊奈門さんはいないんですね。』
「ああ。あいつは今、忍務で手が離せなくてな。……それは私達もなんだが。」
「比較的、一番早く組頭を連れて帰れるだろう山本さんと私が来たんだ。」
はあ、とため息を吐いて頭を押させる山本さんと高坂さんに心の中で合掌をする。いや、本当にお疲れ様です。そっとお茶を出せば、2人は嬉しそうにお礼を言ってから手をつけた。
あ、そうだ。せっかくだから"あれ"も出そうか部屋の隅に置いてあった風呂敷を持ってきて、そっと開けば微かに甘い匂いが鼻を霞める。
『今日の朝一に買ってきたものです。良ければ召し上がって下さい。』
箱の蓋をとればより一層甘い匂いが部屋に広がり、中からは色鮮やかな練切が顔を覗かせた。
「これって、もしかして……」
あ、山本さんと高坂さんの目の色が変わった。何を隠そうこのお菓子は最近出来た店のもので、かなり美味しいと評判なのだ。そうか、2人は知っていたのか。
『学園長がどうしても食べたいと仰ったので買いに行ってきたんです。ついでに自分の分も。』
「買うのにも一苦労だと聞いたぞ?」
『ああ、確かに一刻ほど並びましたね。それにちょうど私の後ろにいた方で売り切れましたし。』
いや、本当に運が良かった。あと少しでも遅く並んでいたなら、今頃学園長が拗ねていただろう。
「尊奈門がよく組頭に頼まれて何度か買いに行ってるが、持ち帰ったとこを見たことがないと言うのに……。」
まじか。だから山本さんも高坂さんもこの菓子を知ってたんだな。と言うか、尊奈門さんが可哀想なんですけど。
『…………雑渡さんと尊奈門さんの分、持ち帰られます?』
「「すまない、秋月……。」」
しょぼんと項垂れる2人は到底年上に見えなかった。え、なんなの。特に山本さんなんておじ様でしょう。なんでこんなに可愛いく見えるんだ。
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