▼ "女"に勝る"男"-06-
「ええっと、その〜、帰ってからしなくちゃいけない宿題のことを考えてたらなんか疲れたって言うか、その憂鬱になったって言うか…………。」
必死に弁解するきり丸に俺は少し面白くて、口元に袖を当てながらくすくす笑う。だって口調と格好が全然あってない。なにこれ。今日のきり丸は、朝から可愛いすぎだ。どっかの山賊に狙われないか俺心配。
『ふふふ、きり子ったら口調が戻ってるわ。』
俺はしゃがんできり丸の目線に合わせてから、人差し指をきり丸の口元にそっとあてた。言うなれば、"しーっ"のポーズだ。
しかし宿題のことを考えてた、かあ。そうには見えなかったんだけどな。宿題のとか目先のことじゃなくて、なんかこうもっと別の何かだと思ったんだが。……まあ、いっか。
『あのね、宿題が分からなかったら私のところに来ればいい。今はそんな事で悩んで疲れなくてもいいわ。』
するときり丸は困ったように苦笑した。おおかた自分が言った嘘が俺にバレてて、尚且つ俺がそれに気付かないフリをしているのが分かったんだろう。
『さあ、帰りましょ。』
きり丸が何を思ってため息を吐いたのかはわからないけど、彼が言わないならそれはそれで無理矢理聞く必要もないと思う。そっと見守るのも大事だもんね。それに言いたくないことだってある。
話を切り上げて、さっときり丸の目の前に手を差し出せば、彼はきゅっと手を握り返してくれた。
「…ありがと蓮夜さん。」
『ん?何か言った?』
ぼそっと聞こえたそれを俺は聞こえないフリをしてきり丸の手を引いて仲良く学園へ向かった。
****
『ただいま帰りましたー。』
「蓮夜くんにきり丸、おかえりなさーい」
こんこんと学園の門を叩けば中から小松田さんが出てきた。と思ったら奥の方から物凄い勢いで小平太や文次郎、他の6年生の気配が近づいてきた。そして次の瞬間、
「蓮夜ーーーーっっ!!!」
小平太ががばっと俺に抱きついてきた。転けないでしっかり小平太を抱き止めた俺はかなり頑張ったと思う。下手したら潰れてるからな、これ。
『あらあら、どうしたの小平太?』
「すごいな!本当に蓮夜か!?吃驚するほど綺麗だし、なんかいい匂いもする!!」
思わず"男"に戻りそうになったのをぐっと堪え、にっこり笑って小平太に返せば、興奮しているのかぴょんぴょん跳ねて話してくる。綺麗って言葉は嬉しいが、なんだ、いい匂いって。一応俺は男だぞ。恥ずかしいから止めてくれ。
「おおお!すげーな蓮夜。そこらの女より断然綺麗だ。文次郎も蓮夜や仙蔵を見習え。」
「あ゛?何だと!?」
続々と集まってくる6年のメンバーに俺はため息をついた。俺が今日女装をしているのを知っているのはきり丸と仙蔵と小松田さんだけだ。きっと皆に知らせたのは仙蔵なんだろうな。面白おかしく話したに違いない。
あまりにもぎゃいぎゃい煩く騒ぐものだから、近くにいた生徒がわらわらと集まってくる。
「え、蓮夜さんなんですか!?」
「すげー、女装姿初めてみた!!」
「三郎、お前顔真っ赤だぞ。」
「う、煩い////!!」
おいおい何この状態。聞いてないんだけど。俺、あきらかに晒し者みたいになってるじゃないか。仙蔵の馬鹿野郎。
「……っ、蓮夜さん!」
『ん?なに三郎?』
「女装姿の蓮夜さんも凛々しくて美しくて、すっごく綺麗です。」
……まあ、そう言って貰えたからまだ良しとしようか。しかし三郎よ。お前の中での俺は美化され過ぎじゃないか?
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