▼ "女"に勝る"男"-05- きり丸side
目の前の光景に源吉さんは唖然としていた。そりゃそうだろう。かくいう俺も吃驚してる。
『ふふふ、お姉さんならこの色かしら?そっちのお姉さんはこの色ね、きっと。ほら、やっぱりこの色がお姉さんの肌によく映えるわ。ね?
ーーーありがとうございました。また来てくださいな。』
その人その人にあった白粉を選んで化粧のコツを教える。そして傍らで小さく売ってる紅や簪でさえも一緒に薦めるのだ。白粉も紅も決して安い買い物ではない。それなのに蓮夜さんは商品を売っていく。
「すげー……。」
つい女装をしていることも忘れて、素で思わず出た言葉。すると、俺の声が聞こえたのか蓮夜さんは、こちらを見てくすくす笑う。そして耳元でこそっと囁いた。
『こういう単価が高いものはね、"売ろう"としちゃ駄目なの。どれだけ興味を持ってもらえるかよ。』
そう言って笑った蓮夜さんに俺は今日何度目かの胸の高鳴りを感じた。
ああ、もう本当に貴方は男なのですか?それは疑問さえ抱いてしまうほどで。
それに商売の腕も確かだ。ずっとアルバイトばかりしているからわかる。商いを生業にしている人でも、こんなに上手にお客さんを惹き付ける接客をできる人はあんまりいない。流石蓮夜さんだ。
俺がそんな事を思っている間にも、蓮夜さんはどんどん商品を売っていった。
気づけば辺りは茜色に染まり始めていた。
「いや〜、今日は本当に助かったよ。」
源吉さんからアルバイト代をもらう。それは約束よりも多めの金額で俺と蓮夜さんは顔を見合わせた。
『あの、これは……』
「ああ、いいんだいいんだ!!いつもより売上が段違いに良かったからなあ!それもこれもきり子ちゃんと蓮花ちゃんのお陰だから。」
アルバイト代がはずんだのは俺的にはそりゃもう嬉しかったけど、でも売上が良かったのは蓮夜さんがいたから。俺はほとんど何もしてないしなあ。
学園への帰り道、はぁと不意に吐いてしまったため息に蓮夜さんがこてんと首を傾げた。
『あら?きり子どうかした?』
「え?あ、な、なんでもないですよ!?ただ…、タダ!?………うーあー、…ちょっと疲れただけです。」
まさかため息が聞こえていたなんて思わなくて、俺は首をぶんぶんと振り慌てて弁解する。でも、自分で言った「ただ」と言う単語に反応してしまい、結局よくわからないものになってしまった。
『ふふふ、自分で言って反応するなんて。きり子ったら可愛いわね。』
優しい手つきで俺の頭を撫でながら蓮夜さんは綺麗に笑う。
『でも、アルバイト代を弾んでもらった日にきり子が疲れたって言うなんて珍しいわね。いつもなら吃驚するほど元気になるのに……。』
そうだ。俺がこんな良い日にため息を吐くなんていつもならあり得ない。蓮夜さんもそれを知っているから少し心配そうな顔をする。
ああ、もう!俺の馬鹿。蓮夜さんが休みを潰して、それから女装までして、お手伝いをしてくれたのに。蓮夜さんのお陰でアルバイト代も多めに貰えたのに。なに心配なんてかけてるんだよ、本当お馬鹿だ。
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