▼ "女"に勝る"男" -03- 仙蔵side
1人歩いていれば、前方から 見たことの無い女性と手を繋いだきり丸(女装しているからきり子か)が歩いてくる。見たことの無い女性は、目を見張るほど美しく麗しかった。
自意識過剰と言われてしまうかも知れないが、私は自分の容姿を理解して武器にもしてる。それ故に人の美しさにも敏感であるし評価も厳しい。そんな私に"美しい""麗しい"と思わせる人物はごく稀である。そう、それは今まで片手で数えれる程なのだ。それほど彼女は美しかった。しかしよくよく彼女を見てみると、知っている誰かの面影を見つけた。
「きり丸に、…あー、………蓮夜か…?」
そう聞けば彼女は口元を袖で隠しながら困ったように笑った。
『……うーん、逆に誰に見えるのかしら?』
ほう、と感嘆の声が溢れる。蓮夜だと分かっていても見惚れるぐらいだった。仕草の1つ1つから雰囲気まで、どこをどう見ても美しく気品溢れる"女"でしかなかった。
「普段でもだが、女装となるとまた一段と綺麗だ。」
私にしては珍しく、素直にそう口から溢れた。今、私の隣に文次郎がいたら「明日は嵐だ」等と言うのだろうかと想像する。想像の中でも失礼な奴だ。なのに蓮夜と言ったら、
『ふふふ、お世辞でも仙蔵に誉められるのは嬉しいよ。』
へにゃりと笑った蓮夜にため息をついた。しかし、それは私だけではなく未だに手を繋いだままのきり丸も呆れたようにため息をついていた。思うところは皆同じである。
全く、世辞で誉めるほど私は優しくないと言うのに。いい加減、自分の美しさを自覚するべきだな。そんなことは露知らず私の目の前で首を傾げる、蓮夜に私はもう一度ため息をつく。
その時私は良いことを思い付いた。そうだ。今度、蓮夜と共に女装して街に繰り出そう。そして街の男共に沢山貢がせてやろう。ふふふ、私と蓮夜であれば容易いだろう。そっとほくそ笑んだ私にまた蓮夜は首をこてんと傾げた。
初めて見た彼のその姿に、私はいとも容易く心を奪われた。立花仙蔵である、この私が。だがそれも秋月蓮夜であるから素直に納得できた。
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