雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 事務員の苦労-03-


ばたばたと歩く音が廊下の遠くの方から聞こえ、俺は字を書いていた手を止めた。

小松田さん帰ってきたな。あ、吉野先生も隣にいる。んー、 ……しかし何回言ったら彼は忍ぶようになるのだろうか。前に一度、小松田さんに「僕は年上だけど、忍としては蓮夜くんのが先輩だから。」と稽古をつけてくれと頼まれた。あの時、彼は意識したら足音も気配もちゃんと消せてたのにな。あれか、普段は全く意識してないと言うことか。はあ。

『小松田さーん、足音足音。』

事務室の近くまできた彼に、聞こえるよう大きな声で言えばぱたっと足音が止まり、それから忘れてたという言葉が聞こえてきた。おい、忘れちゃあ駄目でしょう。小松田さんは 俺の注意を聞いた後は、ちゃんと足音も気配も消して歩いてきた。そして事務室の戸をそっと開けた。

「蓮夜くーん?吉野先生呼んできたよ。」
『ふふ、ありがとうございます。』

すると吉野先生が小松田さんの後ろからひょこりと顔を覗かせて、事務室の中を見た。

「なんと、流石蓮夜くんですね。短時間でここまで片付けるとは。」
『いえいえ、俺一人で片付けた訳ではありませんから。』

吉野先生が書き直してくださった書類を小松田さんから受け取り、机に置く。うん、これで書き直す書類もだいぶ終わったかな。あとちょっとの辛抱だ。

『あとは、俺と小松田さんでやっておきましょうか?』
「いえ、蓮夜くんが休憩時間返上して仕事してくれているのに私だけ、という訳にはいきませんから。」

そう吉野先生は笑いながら首を振って答えた。うーん、そんなの気にしないのになぁ。それに小松田さん関連のことで休憩時間、休暇返上は今更だからね。でもな、吉野先生もこう言って下さってることだし、事実仕事も早く終わるだろうから。

『なら、お言葉に甘えて……。』
「ええ、もちろん。」
「なら僕はお茶を持ってきまーす!」

そう言ってばたばたと走り去る小松田さんを吉野先生と一緒に見送る。

「小松田くんは悪い子ではないのですがねぇ。」
『ふふ、逆に優秀すぎる小松田さんは少し困ります。俺の仕事なくなっちゃいますから。』

まぁ俺からしたら、何だかんだで可愛い弟みたいなものだ。冗談めかして言えば吉野先生も楽しそうに笑ってくれた。

「まあ仕事を増やしすぎるという点は困りますがね。」
『確かに。でもそれが小松田さんでしょう。欠点を含めての人ですから。それにいざと言うときは頼りになるんですよ?』
「……相変わらず、蓮夜くんは大人びたことを言いますね。本当に小松田くんより年下か疑わしいものです。」

吉野先生が可笑しそうに言った言葉に俺は内心失笑した。だって精神年齢だけは高いですから。

「お茶持ってきましたー!!………うわぁっ!」

お茶を持った小松田さんが戸を開けて入ってくる。その時、足元の段差につまづいたのかバランスを崩した。あ、やばい。お茶が飛んでくる。でも今ここで避けてしまえば、俺の後ろに積んである書き直した書類の山がまた濡れてしまう。ガシャーンと派手な音がした時には俺は頭からお茶を被っていた。

「うわあああ!蓮夜くんごめんねぇえぇ!!」

……もう転けないでって言ったのになぁ。というか熱いんですが。


(「小松田くんっ!!!!」)
(「すみませーんっ!」)
(『(……書類濡れなかったし、まあいっか。)』)



prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -