▼ 事務員の苦労-01-
忍たま長屋の屋根に登り、寝転びながらぼーっと空を眺めた。空はどこまでも蒼く広がっていて、どこまでも綺麗だ。
……この空って異世界にも繋がってるのかな。"あたし"の世界にも。なんて、久しく感じていなかった感傷に浸っていれば、下の方がなにやら騒がしくなった。
「また小松田さんがやらかしたらしいね。」
「吉野先生カンカンに怒ってたなぁ。」
「ふふふ、怒った吉野先生とかすっごいスリル〜。」
声からして1年ろ組の子達か。
きゃっきゃっ、とはしゃぐ彼らは楽しそうだ。でも俺は全然楽しくないぞ。そんなことを聞いてしまったら、2人のもとに行かなきゃと思ってしまうだろう。あーあ、せっかくの休憩時間だったのに。でもしょうがないか。
ばっと音を出さずに地面に降り立つ。
すると、今まで話していたろ組のみんながビクッと肩を揺らした。そして平太と孫次郎が勢いよく伏木蔵と怪士丸のうしろに隠れた。
「「〜っ!!!」」
「わっ、蓮夜さんじゃないですか。」
「もー、驚かさないで下さいよぉ!」
伏木蔵と怪士丸が俺に話しかけるが、平太と孫次郎は未だに2人の背に隠れている。あーらら。吃驚させすぎたかな?
『悪い悪い、そんなに吃驚するとは思わなくて……。』
困ったように眉を下げて平太と孫次郎の頭を撫でれば、彼らはすぐにへにゃりと笑った。
「んーと、蓮夜さんは普通にしててもですね、気配が全くわかんないので余計に驚いちゃうんですよ。」
友人の背中から出てきて話す孫次郎に、他の3人もうんうんと頷いた。あー。何て言うか気配を消すのはもう癖だからなぁ。流石に街に行くときとかはちゃんと気配は出してるけど、学園にいるときはさほど気にしないしね。
『うーん、これからは気配を消しすぎないよう気をつけるな。』
すると、ろ組のみんなはぱちくりと目を瞬かせてから顔を合わせた。
「駄目ですよぉ!」
『え、?』
何で駄目なんだ……?今、驚かさないでって言ったじゃないか。訳がわからなくて首を傾れば、ろ組の子達はにぱっと可愛らしく笑った。
「だって、気配を読む良い勉強にもなりますしー。」
「蓮夜さんの居場所がすぐに分かっちゃったら、あっという間にみんなに占領されちゃいますから!」
「「「ねー!!」」」
あの、俺にはよくわからないんだけど……。占領ってどう言うことなんだ。
「(だって蓮夜さんのことは学園のみんなが好きだから。)」
「(何処にいるか簡単に分かったらみんなが群がってなかなか話せなくなるでしょう?)」
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