▼ 閉幕そして帰還-01-
運ばれてきた怪我人を順番に手当てする。敵味方関係なく。うーん、普通ならこんな光景はあり得ないんどけどな。寛大と言うか何と言うか。
かく言う俺も率先して怪我人の手当てをしてる側だが。だって、俺がいくら忍だと言ってもむやみやたらと人を殺したいわけじゃないし、むしろ無意味な殺生はしたくない。なんて、今は亡きササガタケの忍組頭が聞いたら「お前は甘いなぁ」なんて笑われるかもしれないが。
手当てが一段落ついたところで俺は乱太郎達に新しい包帯をもらいに行こうと足を進める。人がごった返す救護所をぐるりと見渡せば、目当ての人物はすぐに見つかった。
『みんな、包帯ってまだあるか?』
まだ患者の手当てをしている乱太郎とその近くでせっせと布を巻いて包帯を作っているは組の子達に声をかけた。
「あ、蓮夜さん!」
「まだありますよぉ、はいどうぞっ!」
しんべヱに差し出された包帯を受けとってから、有り難うと頭を軽く撫でればふにゃと笑った。
「でも汚れてない布があって良かった。褌包帯使いきっちゃったから。」
確かに用意していた包帯じゃ、到底足りなかったからな。手潟さんが村の中をあちこち探し回ってくれたお陰だ。
その時、こつこつと支え木をついてこちらに伊作がやって来た。その傍らには伏木蔵がいた。
「乱太郎!」
「あ、伊作先輩!」
「あの人、約束守ってくれたね。」
その言葉に俺はふっ、彼を思い出した。
「タソガレドキ忍者隊は園田村との戦には手を出さん」
喰えない人だったけれど約束はきちんと守る律儀な人らしい。少し俺の中で彼の印象が変わった。まあ、少しだけだがな。伊作達を見れば、みんなもあの人を思い出していたらしく、彼の名を呟いた。
「「「ちょっとこなもんさん…。」」」
『……………………。』
いやいやいやいやいや。雑渡昆奈門ですから。ちょっとこなもん、てなんだよ。
あえて何も突っ込まずジト目で伊作を見つめたが、彼は気づいていないみたいだった。
しばらくすれば、また手潟さんが汚れてない布を持ってきてくれた。全く、これだけの布を用意するなんて頭が上がらない。本当に準備がいいというか何て言うか。
「皆さんのお陰で村は助かりました。これでようやく山に逃げている村人達を呼び戻すことができます。」
嬉しそうに笑う手潟さんからは安堵が伺えた。気丈に振る舞っていても、心の中ではずっと不安に押し潰されないよう気を張っていたに違いない。ようやく肩の荷が降りたのだ。
「これで喜三太の無事な姿が見られたら、言うこと無いんだけどねぇ。」
「庄左ヱ門と伊助もな。」
ぼそっと呟いたしんべヱにきり丸も続けた。心配そうな彼らの表情を見て俺は困ったように眉を下げた。確かに、先生方がついていると言っても心配なものは心配だよな。しかし、村のすぐ近くまで迫ってきていた大勢の気配に俺ははっと息を飲んだ。その中にはあの子達の気配もちゃんとあって、俺は知らず知らずのうちに口角があがった。
「おおお〜い!みんなーー!!!」
久しぶりに聞いたその声には組の子達はばっと、村の入り口に目をやる。そして次の瞬間にはキラキラと目が輝いた。
「「「喜三太!庄左ヱ門、伊助!ーーーみんなぁ!!」」」
帰ってきたみんなに駆け寄って抱きつく姿を見て、俺はにこりと微笑んだ。
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