▼ 曲者はこなもんさん-04-
「保健委員の3人が最初の患者になるなんて。しかも自滅!」
にやにやと笑いながら言う小平太に伊作は苦笑を溢す。でもまあ、ある意味いつも通りな感じだけどな、この状況。苦笑しながら、俺は左門を手当てをする。しっかし蛸壺が深くなくて良かった。喜八郎ってば、たまに鬼かと思うほど、深くてえげつない蛸壺掘るときがあるからね。今回はまだ浅めの物で良かった。
「先輩が動けないと明日から困りましたねぇ。」
乱太郎は伊作の手当てをしながら、眉を寄せ心底困ったと言うふうに声をあげた。すると、そっと起き上がった伊作は、乱太郎の目を見つめる。
「ーーー乱太郎、今から君を保健委員長代理に任命する。」
「はいはい、動かないでくださいね。………って、ええぇえぇーっ、私がっ!?」
まさかの言葉に乱太郎の反応が遅れるが、そのあとの驚きようといったらこちらが笑ってしまうほどのものだった。いや、笑わないけど。むしろ可愛いと思ったけど。無理無理、と全力で手を振る乱太郎に伊作は優しく微笑んだ。
「もう動ける保健委員は1年しかいないし、それに大事なのは患者を気遣う優しい心。乱太郎はいっぱい持っているだろう?」
うんうん、と伊作の話を聞きながら俺と伏木蔵は頷く。乱太郎本人は驚きすぎて固まっちゃったけれど、満場一致の意見ってことだな。
「え、心だけでいいの!?」
突っ込んだ小平太に俺はじと目をしたが、彼は気づかなかったようだ。いやー、小平太にはたぶん無理なんじゃないか。なんて失礼なことを内心思ったり、思わなかったり。だって小平太にさせたら余計に悪化させそうだ。それに気遣うどころか、患者が気遣う方に回りそう。
ふっと隣にいる乱太郎を見れば、まだぴくぴくと固まっている。それに少しだけ俺は笑って、そっと頭を撫でた。すると、少し力が抜けたのか俺の顔を困ったように見つめてきた。
『ふふ、大丈夫さ乱太郎なら。どうしても対処が出来ないと思ったら、新野先生や俺を頼ればいい。』
そう言えば乱太郎はやっと表情を緩める。うん、良かった。それに伊作には劣ってしまうだろうが、俺も少しはできるつもりだしね。
「あ、乱太郎。早速で悪いんだけど、蓮夜の脇腹の怪我見てもらっていいかい?」
「はい、わかりました!っということで見せてください蓮夜さん。」
『あ、いや、大丈夫だ。痛みもないしさ。』
伊作の言葉に乱太郎は素直に返事をして、俺に向き合った。でも鎮痛剤のお陰か痛みがほとんどなかったこともあり、伊作に言われるまで自分自身の怪我のことを少し忘れてた。
ただ、そこで退かないのが保健委員。
「痛みは無くても、手当てはこまめにしないと駄目です 。」
『でも、』
「でも、もへったくれもありません。自主的に手当てを受けて下さらないのなら、無理矢理にでも捕まえて保健委員特製の傷薬を塗らして頂きますよ。」
困ったような、でもどこか楽しそうに薬瓶を出してきた乱太郎に、俺は咄嗟にこくこくと頷き服を脱いだ。だって疑問系じゃないし、薬の色が明らかに可笑しかった。やだ、コワイ。それを見た乱太郎が、良かったですっと笑いながら別の薬を取り出したので、ほっと胸を撫で下ろした。
1年生でもやっぱり保健委員だね。笑って鬼の所業をやってのけようとするんだもの。…………恐ろしや恐ろしや。
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