雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 曲者はこなもんさん-03-


慌てて伊作の元へ行こうとする乱太郎と伏木蔵を俺はそっと後ろから抱き抱えた。これ以上の保険委員会の不運は増やしたくないからね。2人は抱きかかえられたことに一瞬驚いたらしいが、何も言わず素直に俺の腕の中に収まっている。ああもう。可愛いな、このやろう。

「なんでこんなところに落とし穴が!?」

乱太郎が俺の腕から少しだけ体を乗り出して、穴のを覗き込み持っていた松明中を照らした。おおお。相変わらず綺麗だ。作った場所はあんまり良くないけどさ。

「落とし穴ではありません。蛸壺3号のターコちゃんと、4号のターェ門です。」

そこにやって来た喜八郎に俺は、はぁとため息をつく。本当、なんで保険委員会が活動する救護所の周りに作ったんだ。だいたい 予想できるもんだろ、これ。だが、そんなことはお構い無しでマイペースな喜八郎は蛸壺を覗き込んで伊作達をみた。文次郎達が近づいてくることに気づかないまま。

「この村の土湿っぽいんだよね、お尻濡れてませんかー?」
「蛸壺掘るなら最前線にしろーっ!!!!」

殴られ、たんこぶを頭にこしらえた喜八郎は鋤をかかえ、しょぼんと項垂れた。まあ自業自得なんだけど、何故かかわいそうに見えるのは、俺が年下に甘いだけなのか、否か。

『喜八郎、明日は塹壕が否が応でも必要になる。なのにまだ全然少ないんだ。喜八郎ならすごく綺麗な塹壕だって作れるだろ?』

俺の言葉に小さく頷いた喜八郎にくすっと笑う。

『なら、頼むわ。』

すると今までしょぼくれてたのが嘘のように、ぱあっと顔を輝かせ、喜八郎は鋤を持って塹壕を堀りにいった。その様子を見ていた文次郎がため息をつきながら、やれやれと首をふった。

「はあ、甘いというかなんと言うか……。あいつが掘っても良い理由と場所をわざわざ与えるとは。」
『なんだよ、いいだろ別に。事実なんだし。』
「まあ、そうなんだが。はぁ…。」

明日、雨のように降ってくる砲弾や銃弾を避けるためには必要不可欠なんだし。甘いってか?知ってるよ。と言うかため息ばっかり吐いてたら、運だけじゃなくて若さも逃げてくぞ。



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