雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 曲者はこなもんさん-02-


「いや、別に園田村に用があったわけじゃなくて、伊作くんと蓮夜くんにね。」

にやっと口布の上からでも分かる笑みを浮かべる雑渡昆奈門に俺は怪訝に眉を寄せた。

「いろいろ調べさせてもらったよ。まあ、時間があまり無かったから深くまでは調べられなかったけどね、元ササガタケ忍軍小頭・秋月蓮夜くん?」
『へえー。で?俺には何の用向きですか?』
「反応薄いね。もう少し驚いてくれたらいいのに。」

予想していたことなので大して驚きはしなかったけど、この短期間の間に調べる余裕があるなんてやっぱりこの男は規格外だ。ぷくっと頬を膨らまして拗ねた雑渡昆奈門に俺は、子供かっ、と心の中で突っ込む。貴方がやっても可愛くありませんからね。俺は続きを促すように彼をじっと見つめればすぐに口を開いた。

「蓮夜くんにはタソガレドキに来ない?って勧誘しにきたんだけど。」
『……はっ!?』
「くくく……っ、その反応が欲しかったんだよね〜。」

驚きで一瞬反応が遅れた。だが、にやにやと笑う雑渡昆奈門に俺はじと目で彼を睨んだ。ったく、反応欲しさに言ったんかい。

『はあ。………本題をお願いします。用件は俺にじゃないんでしょう?』
「…………んー、勧誘の話は結構本気だったんだけどな。」

ぼそりと呟いた雑渡昆奈門の声は俺の耳には届くことはかなかった。

「伊作くんにね、いつかあの時の恩を返さねばと思っていた……。タソガレドキ忍軍は園田村との戦には手をださん。」

へぇ、と心の中で感嘆の声をあげる。タソガレドキ忍軍の組頭は意外と律儀なんだな。しかもそれを伝えるためだけにわざわざ敵陣にまで乗り込んでまでくるなんて。まあ、彼の実力があればこその話なんだが。

「これが私の君への礼だ。」

そう言い残して雑渡昆奈門はこの救護所を去っていく。追う気はないのかって?実力差が歴然なのに追うなんて、自殺行為だ。相手方から去ってくれたんだから良しとしなきゃ駄目だろう。戦意もなかったことだしね。でも、

「「ひぃ!…うわぁぁー、」」
「左近……!数馬!?うわぁ!」

どすん、と聞こえた音に伊作が慌てて救護所の外を見に行く。すると次には俺の視界から伊作が消えて、バキッ、どすん、と続けて盛大な音が聞こえてきた。

「「伊作先輩!!!」」

……雑渡昆奈門、不運委員会にこれ以上の不運を見舞わせないでよ。


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