深緑と群青










「さて、仕込みもばっちりね。もうそろそろ生徒たちも来るんじゃないかしら。」









腰に両手をあて、ふーっと一息つくおばちゃん。








「さて、ここからが冬真ちゃんのお仕事の本番よ。注文を取るのを頼むわ。」








ニコニコと笑みを浮かべるおばちゃんとは反対に、俺の気分は急降下。





なんせあの男たちを相手にしなければいけないのだ。












文句でも言われる準備しとくか・・・・











思わずため息がこぼれそうになったが、おばちゃんの手前、ぐっとこらえる。











ちなみに、皮むきをする前におばちゃんから髪を結うための紐ももらい、



しっかりと今はアップにしている。






準備は万端だ。

















すると、


















「おばちゃ〜ん!!朝ごはん!!」






と、朝っぱらから大きな声が。





勢いよく食堂に足を踏み入れたのは深緑の制服の男。







たぶんあの隈男と一緒にいたやつのひとりだ。







少しだけ見覚えがあった。









すぐにカウンターまでやってきたその男はカウンターに立つ俺に気づいて目を丸くさせた。









「あ。」







俺は男のその態度にかまうことなくできたての朝ごはんを盛り付けたトレイを


無言でサッとさしだす。







押し付けられたようにわたされたそれを、男も思わずといったように無言で受け取った。




そしてそのままそこからピクリと動くこともせず、



おいしそうな匂いとともに湯気のたつ食事に視線をやった。












「小平太・・・朝からうるさい。」






続いて、のそりとやってきたのもまた深緑の制服。






こいつも隈男と一緒にいたやつだ。






「んー・・・」





小平太と呼ばれた男は、未だに食事をみつめたままその場でうなっている。






「あら、七松君どうしたの?」





その状況に気づいたおばちゃんは、カウンターの奥からこちらをのぞくように問いかけた。





「あ、いや・・・なんでもないぞ!おばちゃん!!」




男。七松はそういって笑みをつくると、そのまま机へと向かっていった。





「まぁ、細かいことは気にするな!!だな!長次!!」





ナハハハハ!!と、これまた馬鹿でかい声を上げながら朝食を口に運び始めた。











あとから入ってきた長次と呼ばれた男も、一瞬俺に目をみひらいたものの



七松とは違い、黙ってわたされた食事を、黙ってすぐに七松のそばの席へと持っていった。








デケー声・・・朝から元気ですこと・・・








ぼーっとそんなことを考えていると次々といろんな色の制服の生徒たちが食堂にやってくる。





みんな決まって俺に気づくと顔をしかめるのだが、



先に食ってる七松や、もう一人の男と


おばちゃんが奥に控えてることもあり、黙って食事を受け取る。



んーおばちゃんは偉大だな・・・



感心したように、もう随分と人口密度の高くなった食堂に目を向ける。


「冬真ちゃん。わたし昼用に野菜を倉庫からとってくるからちょっとの間一人でお願いね。」


裏口から出て行くおばちゃんを横目に

『はい。』

と、返事をこぼす









「文次郎・・・お前相変わらず隈が酷いぞ・・・。」

「うるせぇ・・・」




タイミング悪く食堂に顔を出したのは例の隈男と、その仲間の最後の一人。


カウンターに来るまで、二人は言葉をかわし、俺に気づいていないようだったが。


さて、こいつも黙って受け取ってくれるのか・・・・



「だから、それはっ・・・・・」

「なんだ急に黙り込ん・・・・」



隈の男が俺に気づき、カウンターの前でピタリと動かなくなり、それに気づいた隣の男も俺を目に、黙り込む。


その雰囲気に、少しだけ食堂がざわつく。


ちらちらと、食事中の生徒たちがこちらに視線を向けている。


「なんでテメェがこんなところにいるんだよ・・・」


初めて会った時となんら変わりなく、


相変わらずの剣幕で、うなるように声をだした。



『仕事ですので。』



そう言ってやるも、男は眉間にシワをよせるばかりだった。


「ふざけんな!!テメェーに渡された飯が、やすやすと喉を通るわけねぇだろうが!!」



間近で怒鳴られてはたまったもんじゃない。



思わず顔をしかめると、隈男の隣のとこは


なだめるように声をかけた。


「よせ、文次郎。」


しかし、隈男は聞く耳持たない。


つーか回り見ろよ。

みんな黙って食ってんじゃねぇかカス。



そんなことを口にしても、火に油を注ぐだけだと口にせず

ただ黙って男をにらみ上げる。


「っ、てめぇのその目が気にいらねぇんだよッ!!」




ガッと、カウンター越しに男に胸倉をつかまれる。




瞬間のフラッシュバック




「っち、ホント、ムカつく面と態度だぜ。」




どうしたもんか、俺の頭もカッと熱くなった。



『文句があんなら食わなきゃいいはなしだろ。テメェは飢えてろよカス』


「んだと!!テメェっ!!!」

「やめろ文次郎。」



隈男の横で仲間の男があまりとめる気も無いだろうに形だけでもと、そんなことを言う。



糞やろう。

止める気もないくせに







俺の胸倉をつかんだまま、隈男のもう片方の拳が振りあがる。




「ッ、」




誰かの息を呑む声が聞こえた。




瞬間。頬に鈍い衝撃。




こいつ、俺の顔を殴りやがった・・・・





あまりの衝撃に口の中をきってしまう。





血の味が口いっぱいに広がった。





隈男に胸倉をつかまれているせいで倒れることもなかった俺は


男をにらみつけたまま口の中の血を顔めがけて吐き捨てた。



『ちょっとの事できれて女の顔軽々しく殴ってんじゃねぇぞ単細胞』




ジンジンと尋常じゃない熱を持ち始める頬に、冷や汗が背中をつたった。



「てめぇッ・・・・」



これでもまだ足りないのかと、もう一度男がこぶしを振り上げる。



結局のところ、隣の男は傍観を決め込んだままだ。

やっぱりこいつ、止める気なんてサラサラねぇじゃねぇか。


もう一度来る衝撃に歯を食いしばった時













パシリッ



誰かが俺と隈男の間に体をすべりこませ、隈男の振るったこぶしを受け止めた。








『あ・・・』







いきなりのことに思わず声をもらす。







視界いっぱいに広がるのはまだ記憶に新しい群青だった。


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