夜の闇に不安は尽きぬ






こんなにも静かな夜は、初めてこの世界に来た時以来じゃないだろうか。






庭先で、虫の泣き声が小さく聞こえる。




体は十分に疲れているが



如何せん、今まで昼夜逆転の生活だったのだ。






そう簡単に寝付く気にもなれなかった。






ふと、部屋のふすまを開け、縁側に腰を下ろしてみる。




少し冷たい風が耳の横をすり抜けた。





空を見上げれば都会では絶対に見れないであろう数の星。







素直に綺麗だと思えた。



思わずホーっと息が漏れた。




どうやら俺は何年もの間この空の美しさに気づけなかったらしい。






そのまま、ただボーっと空を眺め続ける。



そうすればいつか眠たくもなってくるだろうと思ったからだ。







しかし、眠気が来る前に空を見上げていた首が痛くなるほうがずっと早かった。






今度は逆にうつむき加減にうずくまる。





目を閉じてみると、当然だけど視界は真っ暗だ。




視界が黒くなれば自然と頭の中で今までの色々な出来事が再生された。







考えてみれば俺は依然として籠の鳥ではないだろうか。













衣食住は与えられた。




しかし、どういうわけか、ここの住人に俺の印象はどうにもすこぶる悪いらしい。





無許可でこの敷地内から出ようものなら


何のためらいもなくこの細い首をはねられるだろう。







そっと首に巻かれた包帯に手を添えてみる。







ピリリとした痛みに自然と眉間にシワがよった。



この傷をつけられた時は痛いだなんて少しも思わなかったのにな・・・








俺も意地になって興奮していたし、



アドレナリンとかいうもののせいだろうか。













『はぁ・・・』






ため息が出た。





これから先のことを思うとひどく憂鬱になる。






出生も分からない。遊女として働き、外の世界の常識も何も分からない。




そして、今もなお、この忍びの館から出られない状況。





無許可では出られないだろうといったが、


許可をとれるとも思えない。




















そうだ、あの少年は、もう少し時が経てば着物を売りに町に出れば良いと言った。




もし、その時が来れば




彼に言えば俺を少しの間でもここから出してくれるだろうか。










この命がつきるまで、この館にいるわけにも


当然の話だがいかない。








俺の道はどうなるのだろうか。





誰かに嫁ぐ?










誰に?














男は御免だ・・・・


















夜は少し苦手だった。



ふだん考えないような不安の塊が、決まって頭の中を支配するのだ。








どうしてだろうか、夜はそういう力のようなものを持っていた。
















昔の話だ。



父親が死んで、急に死というものが間近に感じられた。




そうだ。人とは死ぬ生き物だった。










新しい男が家に来た時。





急速に夜が嫌いになった。







昼間にできた傷や痣が、夜になれば当然のように疼くのだ。





暗い部屋、痛む傷。







いつまでこんな暮らしが続くのだろうか。







暗い考えを取り除こうと、大好きな。優しい女の子のことを思い浮かべてみるけど




夜はそんな俺をあざ笑うかのように



いとも簡単にまたそこの見えない不安を俺の頭の中によぎらせた。











『もう寝よう・・・』








小さく独り言をもらした。






俺がまだ男だったときとは随分と変った声が



鼓膜を揺らす。






大丈夫。


まだ俺はここにいるし、生きてる。









疲れてるからこんなにも不安になるんだ。








男だろ、なんでこんな弱音吐いてんだよ。






俺は強いから。





こんな暴力いつもの事だったじゃないか。





大丈夫。






大丈夫。




おまじないのように頭の中で何度もそう繰り返して


新しい匂いの布団にもぐりこんだ。





ホラ、目が覚めればまたいつも通りの朝だ。


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