奴の思惑彼女気づけず


忍術学園敷地内に、見知らぬ女が現れたらしい。







まだ卵とはいえ、忍者を志す者が学ぶ所。








その情報は瞬く間に生徒に広がった。




潮江先輩が見つけた。だとか


女はものすごくキレイな着物を着ているらしい。だとか







本当に数分前に起きたリアルでホットなニュースが一瞬で広がるのだ。









あまり考えたことはなかったが、

こうしてふと考えてみればなかなかに恐ろしいものだ。







そして、その出来事を聞き、大半のものは眉間にしわを寄せた。






最近この学園では外部の女に良い思い出がないからだ。







現に、私の仲間もこうして眉間にしわを寄せ、うなっていた。








「また、来たのかよ・・・。」








「この前来たのいつだっけ?つい最近じゃない?ペース速くない?」








「嫌、でも今度こそただ迷い込んだ女性かも・・・でも、いや・・・」








「俺は考えるだけ無駄だと思うけど。」








各々声を漏らす仲間たちに私は苦笑い。








こんなに女という生き物に疑念というか、警戒心を持っていて



これから先こいつらは所帯というのを持てるのだろうか。






しかしまぁ、無理はないのかもしれない。







それは、少し前に女が身寄りがないのだと


忍術学園に訪ねてきたときから始まった。







身寄りがなく、住み込みで働く場所を探していたというのは分かる。







しかし、何もこんな山奥にある忍術学園に職を探しにくるとは


いささかおかしな話だとは思ったが。





まぁ、色々と事情もあるのだろうと



それほど疑いを持ったわけではない。









住み込みで働きたいときた女を。


学園長が快く引き受け、女に仕事を与えた。







しかし、女にはできないことが多すぎた。







火をおこすこと、包丁の扱い方。


井戸の水汲み。他にも色々。







今までどうやって生活してきたのだと遠まわしに聞けど


女は苦笑いを浮かべるばかりだった。






これはよほどの理由があるのだなと、私も思った。



こんな山奥にまで職を探しに来たのに関係しているのだろう。








これは単なる私の推測だが、彼女は最近まで監禁でもされていたのではないか?








そう思った。









そうすれば、生活に必要なことにもかかわらず、動作が鈍かったりするのも


山奥に職を求めてきたのにも納得がいくからだ。








そうして、不安は残る動きではあるが、教えてもらい


働いていた彼女。






とうぜん、学園の者も数日もすれば彼女に好感を持つ。




以前から新しい顔である彼女に興味本位で話しかけたいと思っていたやつは多くいたのだ。





ましてや、忍術学園という閉鎖的な空間で。


しかも、近くの異性といってもくのいち教室の生徒などという





一癖も二癖もある女ばかり。









町娘のような軟い体つきの彼女は、思春期である上級生にとって



なかなかの興味の対象だったのだ。







それから彼女とも仲良くなっていき、


いっそうにぎやかになる学園。













というようなことにはならなかった。











なぜか?








女の周りには次第に上級生たちが依存といっていいほどに執着し始め




女もそれに甘んじ、仕事にさえ手をつけなくなった。







上級生の間では彼女をめぐって争いがおき、





下級生の間ではピリピリとした上級生の雰囲気に気疲れし





精神的に参ってしまう者が多くいた。







恋は盲目とはよく言ったものだが、


あの状況はあまりにも狂気じみていたと思う。







そのくせ、女は怠慢な日々を送る。







あまりにも見ていられないと、一部の教師が注意をするも女はそしらぬふりだった。







そんな中、どういうわけか、女に執着していた一人が

フッと目が覚めたように変った。








そして、その時の学園の状況をみて顔を青ざめたのだ。







そのことに、学園側はついにこれは何かの妖術のようなたぐいではないのかと



疑念を持ち始め、ついには女を強制的に処分することになったのだ。








女が消えればどうだ、女に異常なまでに執着していた者たちも正気に戻り。




今までの出来事にやはり顔を青ざめる。






そして、少しばかり下級生との間に溝ができてしまったのだ。







そんなことが、それおきに数回起こり始めたのだ。








最近は上級生たちもさすがに態勢のようなものがついたのか





女に惑わされず、判断されれば即座に女を処分していった。







不思議な話だ。あれらは妖怪なのか、はたまたもっと得体の知れないものなのか






そんなことは未だにわからない。






しかし、血が私たちと同じく赤いことは知っているのだ。



















何を隠そう、この私の目の前でうなっているこの友人たちも



一度はその女たちの毒牙にかかってしまっているのである。







ゆえに、外部の女には憎悪にも似たような感情が渦巻いているのである。






さて、随分と他人事のように話すではないかと思われるだろうが、



ようするに私にとっては他人事だったのだ。





私はその女たちの毒牙にかかったことは今の一度もなかった。





かといって、変っていく友人や周りの人間に悲しみ、女に怒りをおぼえるだとか







そんなことにもならなかった。






要するに私は世渡り上手なのである。







女に好意的な者と、女に敵意むき出しなものに別れ、




喧嘩三昧の日々もあったが、どちらの派閥に対しても当たり障りのない態度で交わす。







そりゃまぁ、その時は雷蔵もかまってくれないし。




兵助も勘衛門もハチも遊んでくれないわけで





心底退屈でつまらない日々だったけど、相変わらず私はあいつらを好いているし






今でも何も変らない。







私にとって女がどうこうだの、どうでも良い話で他人事なのである。









女にたいして敵意むき出しなやつらの行いに、少々女のほうに同情をしたこともあったが







対外は自業自得といって差し支えないものだし、とりあえず赤の他人だし。









どうでもよかった。










「三郎はどう思う?」







「どう思うっていわれてもなぁ・・・」







少し困ったように頬をかけば不意に部屋の戸が開いた。








「鉢屋、ちょっとたのまれてくれないか。」









そこにいたのは実技担当の木下鉄丸先生。






「頼み事ですか?かまいませんよ。」







突然の木下先生の訪問に、その場にいた雷蔵たちもいっせいに口を閉ざす。






頼みごとの内容などだいたいは検討がついている。






おおかた新しく来たという女のことだろう。







まぁ、この学園内で一番冷静な判断ができるのは私だけだろうしなぁ。








立ち上がった私を心配そうに見つめる雷蔵。






「大丈夫だって、お前らも、女一人に騒ぎすぎだと私は思うけどね。」







たかが女一人だ。









それが私たちにとって善であれ、悪であれ、そんなことがちゃんと分かる前に




どうせ待ちきれなくなった上級生の誰かが処分してしまうのだ。








そうすればまた元通りさ。











ほら、なにも懸念することなんてないだろ?












所詮は赤の他人。この時期にこの学園に来たその女に私は同情するよ。












木下先生によると女は今潮江先輩から受けた怪我などを治療するため


保健室で新野先生から治療を受けているという。




そういえば、善法寺先輩と食満先輩は一週間ほどの任務でいなかったっけな。






しかも、出たのは今日の朝方だ。






入れ替わるように来た女に、帰ってきたら先輩ら驚くだろうなぁ。







私の仕事は着物を女に渡し、これから女が住まう部屋まで案内しろとのこと。









なんとも簡潔で簡単な内容である。



聞けば女は冬真というらしい










まぁ、今回はどんな人が来たのか、


暇つぶし程度にはなるだろう。







そんなことを考えながら先生から受け取った着物を手に保健室へと向かった。


















「失礼します。」










声をかけ、保健室へ足を入れると


そこには治療を完了した新野先生と、










ほそく白い腕や首に痛々しく包帯を身につけた女。











すごい頭と着物だ。







くっきりとした目元に赤くぷっくりとした唇。






色気漂う白い首筋がなんともまぶしい。










いでだちからしておそらくは遊女か。







なるほど、どうりで着物を手渡さなければいけないわけだ。





こんな着物では動き図らいだろう。






まぁ、遊女の着物なんてどうせ脱がすだけのものだしな。







事情を説明し、着物を渡せばこれまた女ののどから良い声が吐き出される。










かなり上位の位の遊女だったのではないだろうか。









兵助のように黒く艶のあるその髪もまた、色気を放っていた。









しばらくして、着物を受け取り、敷居の向こうで着替え終わった女が



自分が今まで来ていた着物はどうすればよいかと尋ねながら私の前まで歩いてきた。






先ほどまでたかく結われていた髪は下ろされ、


高そうな髪飾りもなくなっていた。






派手な着物や、髪飾りがなくなったにもかかわらず







女は恐ろしく綺麗なままだった。








おろされた髪により、さっきまであれほどに見えていた首筋は姿を現さないものの







細く白い首に巻かれた包帯から、少し滲む赤に欲を駆り立てられた。










髪をおろしたほうが私好みだ・・・









そんなことを考えつつも彼女の質問に答え、





人当たりの良い笑みを浮かべて部屋へと案内する。






見れば彼女は足も怪我をしているらしく





包帯をまいてひょこひょこと重い足取りで私の後を追う。







そのスピードにあわせ、私もゆっくり歩く。








すると、さきほどのあの声がすっと私に向けられる。









『・・・君はモテるだろうね。』









声をかけられたことに少し驚いて振り向き、








その内容に小さく声を上げて笑った。









そんなこと言われるとは思わなかった。








「それはあなたもでしょうね。」








元遊女にモテるもなにもないだろうとは思ったが







まったくの本心でそうかえせば、当の彼女はなぜか満足そうに少し笑みを浮かべた。









おぉ、今のはちょっとぐっと来た。











最初に会ったのが潮江先輩だというし、






相当脅されて気落ちしているだろうと考えていたが



こんなことを言える位には気にしていないらしい。









なかなか肝のすわった女だ。










そういえば彼女の首と腕の怪我は潮江先輩が原因ならしいが・・・







あのひと、よくこんな綺麗な人に手だせたな・・・いや、暴力的な意味でね。








しばらく歩いていると、女もポツリポツリと口を開く。








どうやら潮江先輩に対する愚痴のようだ。








潮江先輩を隈男と呼んでいることにも笑ったが、






私の行動が潮江先輩と比べられていたのだなということで、





さっき彼女が何の脈絡もなく発した言葉の意味が少し理解できた気がする。









確かに潮江先輩はモテなさそうだ。





彼女の話を笑いをこらえながら聞きつつ。








部屋へと送り届けた。









どうやら彼女は私にはなかなか心をゆるしてくれているらしい。









彼女を送りとどけてからにやける口元をてで覆い、










少し早足にあいつらのいる私と雷蔵の部屋へ向かう。





どうしよう。





これは予想になかった。






部屋にたどり着けば心配そうにしていた4人がいっせいに私を見る



そして、心配そうな顔を一変。
眉を寄せる。



「三郎、お前何にやけてんだよ・・・。」




その場のみんなの気持ちを代弁してハチが口を開く。





「どうしよう。こんな気持ち初めてだ。」





さぁ、これからどうやってあの自信にあふれた顔をゆがめてやろうか。


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