弱みを見せるな味方など居ぬ


「うぉっほん。えー、それでは、先ほど言ったとおり、

冬真をこの学園で受け入れることにする。

ちなみに、ワシが決めたことなので異論は認めん。解散!!」




老人が、そう言って自身の両の手をパチリと叩けば


それを合図に部屋の中にいた黒い装束を身にまとった人たちが
一斉に消えた。


さらに、後ろに縛られた俺の腕も一瞬で開放される。






うお、忍者だ・・・







目の前で見たことに、若干感動を覚えて呆けていると






「おい、」






と、いう男の低い声が。




見れば深い緑色が数人。





俺に声をかけたのは、おそらく俺をここまで連れてきた男で


目の下に酷い隈をこさえて俺の目の前へとやってきた。



必然的に、座る俺を見下すような形になる。





俺は顔をゆっくりと上げ、男を見る。




その、ゆっくりとした動作が気にくわなかったのか

男は乱暴に俺の腕を掴むと無理やりに立たせる。







痛い。






腕を掴む力が尋常ではなかった。




俺の白い細腕に何すんだこの野郎。




この場にいるのは

俺と、深緑が数人と、そしてご老人。





老人が、解散といったにもかかわらず


その場からいっさい動いていない深緑たちの

俺に対する乱暴な扱いに、老人はただピクリと眉を動かしただけだった。





口出しをする気はないのだろう。ただ傍観に徹している様に見えた。







なるほど、この老人。優しそうに見え、

俺をかばってくれた口ぶりから、味方かと思えば

案外そういうわけでもないらしい。






『何か?』








テメェなんざ怖くもなんともねぇんだよ。



男が女を暴力でねじ伏せようとしてんじゃねぇぞ糞野郎が







内心でぼろくそに毒を吐きまくる俺だったが、

表面上では無表情の無色の声色で答えてやる。






俺の腕をソレはもう強い力で未だに掴んでいるその男は


余裕ともとれる俺の淡々としたその態度に

わずかではあるがピクリと眉を寄せた。








怖がると思ったか?






泣き出すと思ったか?









気に食わなきゃ暴力でねじ伏せて・・・

これだから男って奴はつくづく単細胞だ。






俺以外。










しかし、正直のところ言っておくが、








痛くないわけではない。




それはもうすこぶる痛い。







怖くないわけでもない。




それはもう超絶怖い。








今にも叫びだして、傍観を決め込んでいる糞爺に

助けを請いたいくらいだ。







しかし、俺はこんな男に屈したくなんてない。







意地と、プライドだ。








意地で痛みを無いことにして、



プライドで怖さを微塵にも見せない。









自分、男らしい。拍手を送りたくなった。






「貴様の目的はなんだ・・・」





あくまで、こいつの中では俺という人物は

くの一だとか、そういった類のもので、敵なのだろう。




そりゃあもう敵意むき出しの低ーいうなるような声でそう言うが、


目的も何も、偶然ここにはたどり着いたのだ。

答えようが無い。






しいていうならば、匿ってほしいってことかな?





男の顔を無表情にじっと見つめたまま無言を決め込んでいると、

男は再び口を開く。







「・・・またアイツ等のように俺たちを、」







・・・・?







アイツ等?








君たちを?









意味が分からん・・・・





何で俺が、君たちになにかすんの?





なんかもう突っ込みどころがありすぎて

逆に何から突っ込めばいいのか皆目検討もつかない。






内心はてなを大量生産しながらも、やはり表面上は無表情に沈黙。




苛立ちをまったく隠せていない男の

俺の腕を掴む力がさらに強くなったとき、





「文次郎。やめておけ・・・」





そういって、さっきまで少しだけ離れたところにいた

深緑の数人のうちの一人が、俺たちのそばまでやってくると、




俺の腕をつかんでいるその男の肩をそっと引く。



それに、男の力が弱まり、未だ掴まれはしているものの
まったく力は入れていないようだった。





「仙蔵・・・」





隈の男にそう呼ばれた白い肌の男はとても綺麗な長い髪だった。




「こんなところでいがみ合っても仕方が無いだろう。

学園長の御前だぞ。」




そういわれれば隈の男はようやく俺の腕から手を離した。





痛みを我慢するために詰まっていた息が少し緩まった。





「申し訳ありませんでした。冬真さん。

コイツには、後ほど私から言っておきます。」





サラサラの髪の男は、そういって頭を下げると、

隈の男を連れ、数人の深緑の下へと帰っていく。







しかし、その途中

フと立ち止まると





「しかし、あなたが私たちを目的にここへ忍び込んだというのなら

私たちも容赦はしませんよ・・・・」





と、その切れ長の瞳をギラギラと鋭利な刃物のごとく光らせ

そういってからこの場を去った。




もちろん彼の周りの深緑も一緒に。










いや、なんで俺の目的がお前等なんだよ。




自意識過剰もたいがいにしろ。







呆然とわけもわからないまま、そのまま立ち尽くしていると





「うぉっほん」




という、老人のわざとらしい咳払いが聞こえた。










いつの間にやら、この場には俺とこの老人しかいない。




老人に目を向けると





「冬真、少し話をしよう。」





と、再び私に座るよう促した。




「立っていては、ソナタも足が痛かろうて。」




そういって老人はチラリと、傷だらけの俺の脚に視線をむける。










一応は気を使ってくれているらしい。





一応は。








確かに足の調子も良くないので、俺は座らせてもらうことにする。



老人は、そばにあった湯飲みを手に取ると、

湯気のたった熱そうなお茶をズズズっとゆっくりすする。







そして少しの沈黙。






「・・・先ほどはうちの生徒がすまなかったのぉ。

わしも歳じゃ、止めることができんでな・・・」





この、狸爺。いけしゃあしゃあと・・・





思っても無いことをぺらぺら、





『いえ、とんでもございません。』





そう言えば、老人は湯飲みを盆の上に置き




「うむ。」




と一つ、小さく頷いた。






そして、再び口を開く。





「少し前、この学園にはのぉそなたと同じく、

身寄りをなくした子が来てな・・・」




はあ。そうですか





「ここで住み込みで働かせてほしいというのでな

雑用として雇ったのじゃよ。」






それはなんとも慈悲深いことで、





「しかし、その女子はとんだくわせものでのぉ

なにやら不思議な力で男を侍らせ、この学園を

むちゃくちゃにしていったのじゃ。」









・・・女の子だったのか。





「そのせいか、学園のものはみな

よそ者の女に敏感に嫌悪するようになってしまってな。」





『・・・その女性は今?』





沢山の男どもを侍らせるくらいだ。

さぞ美人なんだろう。






会いたい。ものすごく会いたい。









そんな下心で女性の現在を聞けば、老人は再びお茶を一口。





「・・・数日、男を侍らせてから、誰に気づかれることもなく
            突然消えてしまったのじゃよ。」








・・・消えた?








「驚くのは無理ないであろう。事実、ワシらも酷く驚いてのぉ」




『そうですか』










消えた、ね・・・・









「・・・そういうわけで

ソナタには学園のあたりはちときついかもしれん。」






なるほど、あの隈の男みたいな奴がゴロゴロいるってわけだ。

胸糞悪い。







そして、おそらくそのことに周りのものは一切口出ししないのだろう。



さっきのこの老人を見ていれば容易にそんなことはわかる。





「・・・冬真。ソナタは足に酷く傷を負っているようじゃ。

それに、先ほどの潮江 文次郎のおかげで

腕も相当痛むじゃろう。

ヘムヘム、冬真を保健室まで連れて行ってやりなさい。」





老人がそう言えば、傍にいた頭巾をかぶった犬が


「ヘム!!」


と、勢いよく返事をしたかと思うと、二足歩行で立ち上がった。






二足歩行で。







・・・・もう、何も言わないよ俺は・・・








まぁ、とりあえず、怪我の手当てをしてくれるのだろう。

今はおとなしくその表面上の好意を受け取っておこうではないか。




『お気遣いありがとうございます。』




深く頭を下げてから立ち上がり、



案内をしてくれるらしい

ヘムヘムという変な犬についていく。




「ソレでは冬真。また会おうぞ。」




にこやかに笑う老人に、俺もにこやかに笑みを返す。








一つ、言っておこう・・・










あの老人。おそらく嘘は言っていないが、


本当のことも言っていない。









俺と同じく身寄りをなくした子がここへ来た。




これは本当だろう。





しかし、ソレは果たして一人だったのか?





それも、一度きりだったのだろうか?








「・・・またアイツ等のように俺たちを、」








ここへ来た人物は少なくとも二人。





つまるところ、複数いたはずだ。









そして、突然消えた。


これもおそらく嘘。







なぜか?それはもう勘に近い。






しかし、確かにあの話を聞いたときのあの老人の空気は
いささかおかしかったと思うのだ。






突然消えた。コレは嘘である。




しかし、消えたことは真実だ。


事実、ここにいないのだから。







つまり、なぜ消えたのかを隠している。









なぜ?








何か都合の悪いことがあるから。






それは?





おそらく、何者かによって殺された。


もしくはこの学園のものが殺した。



そして、ここに俺と同じような女の子が来たという話
そのものが嘘であるか。





どれにせよ、とんでもなくろくでもないことには違いなかった。





表面上は俺を受け入れたようだが、


これでは四面楚歌の状態となんら変らない。



ここには信頼するに値するものなど誰一人いない。

もとより、男などを信頼する気も無いが。





とりあえず、男に殺されるのだけは嫌だなぁ


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