迷い込んだは忍びの館


「・・・お前の顔を見てると、あいつの事を思い出すよ。
つくづく似てやがる・・・憎らしくてしかたねぇよ・・・」
















うるせぇな。



そんなこと俺に言ったところで何も変んねぇだろうが。









後から来た奴がガタガタ文句言ってんじゃねぇよ。










「っ・・・冬真、そんなにあの人のことが嫌い?
・・・母さん。二人にもう喧嘩なんてしてほしくないわ・・・」
















・・・わかってるよ、母さん。











大丈夫。


俺はもうアイツと喧嘩しないよ。安心して?
















「オイ、なんだお前のその目。何俺のこと睨んでんだよ。」






・・・・







「黙ってんじゃねぇぞ糞餓鬼!!」





















「冬真!?あなたその酷い怪我どうしたの?」











平気だよコレくらい。


・・・ちょっと、学校の帰り道に不良に絡まれてさ、








「・・・そう。今度お父さんに迎えに来てもらおうか?」








・・・勘弁してよ母さん。





あんなやつ、俺の父親じゃない。





「、冬真・・・・。」












「お前のフェミニストってやつも、度を超えりゃあただの馬鹿だな。
母親のアイツを悲しませたくないんだろうが、大嫌いな父親に黙って殴られる気持ちはどうよ?」










冗談は顔だけにしろよ。誰が俺の父親だって?



「っち、ホント、ムカつく面と態度だぜ。」



























昔から、俺が心底嫌いで嫌いで仕方が無かったのは。


父さんが死んでから、母さんが惚れた男だった。





再婚したとたん。すぐに俺を邪魔者のように扱った。


そいつは、父さんと同級生で
父さんのことが昔から嫌いだったらしい。






あいつが俺に暴力を振るうのも、俺が黙ってソレを受け入れていたのも。


全部全部、母さんは知らない。




優しい人だ。
知ればきっと悲しむだろう。



母さんの涙なんて、俺はそんなもの見たくなかった。







あいつの暴言にも、暴力にも耐えた。




大丈夫。


俺は男だ。




少しくらいの怪我なんてどうってことない。
頑丈にできてるからさ。








あの男が嫌いで嫌いで嫌いで、


本当に仕方が無かった。





暴力的でガサツ、

下品で低脳。






ああ、男とはこんなにも醜い生き物なのか。



























女の子が好きだ。


好きで好きでたまらなくなった。






ふわふわしていて、柔らかくて、いい匂いがして。
そばにいるだけで、話をするだけで心が落ち着いた。








かわいいなぁ・・・






ほんとうにさ。

























「・・・い、」








「お・・・」











「おい!!」







『んあ・・・?』





急激に意識が浮上する感覚。





なんだ、俺は寝ていたのか。









声をかけたのは誰だ?



男・・・?









「貴様、何者だ。どこからここへ入ってきた。」










冷たく、低い声だった。




首もとに軽く当てられたヒンヤリとした冷たい感覚に
うっすらと目を開ければ


黒く光るは刃物が俺の首にあてがわれていた。





クナイだろうか・・・?





一瞬。ここがどこかも良く分からなくて、


周りに視線だけぐるりと動かせば
建物と草木。




そうして、命がけの鬼ごっこを思い出す。



そう言えば、あの後

茂みに隠れたは良いものの。疲れてそのまま眠ってしまったらしい。




固まった体が窮屈で痛かったので
少し動かせば、


首もとのクナイに力がこめられ、かすかに肉に食い込む。






「動くな。答えろ。」









有無を言わせないその低い声色に



あぁ、やはりむさくるしい男は嫌だ。




なんてことを考えた。






『穴を、潜り抜けてきました。』





「・・・穴、だと・・・?」





『はい。』












少しの沈黙の後、再びクナイに力がこめられる。



首の皮が薄く切れたのか、血がツッと首筋を伝って落ちていくのがわかった。






「嘘をつくな。穴など無い。」







そんなことを言われてもどうしようもない。



事実、俺は穴を潜り抜けてきたのだから。







なにも言えず黙り込んでいると、男は俺の首もとからクナイを離すと
グッと腕を乱暴に掴み上げ、無理やり立たされた。




痛いな。



コイツは女の扱い方もしらんのか。



状況はまったく分からないが、
この男には俺の美貌が分からないのだろうか。



自分で言うのもなんだが、こんな美人を乱暴に扱うなど

いったいどういう神経をしているのだと


自然と眉間にシワが寄った。





「来い。」





短くそう一言漏らした男は、

俺の腕を力強く掴んだまま、引っ張るように建物のほうへと足を動かした。





チラリと、男の目の下に酷い隈ができているのが見えた。


深い緑色の衣服を身にまとっている。




なんだ・・・忍者みたいな格好だ。









『・・・あんた、モテないだろ。女の扱い方最悪。』





「・・・無駄口をたたくな。その首を刎ねられたくなかったらな。」







少しおどけて見せてもこの切り替えし。


冗談の通じない奴だ。


あ〜あ・・・

こりゃあ完璧モテないやつの代表例だね。






ぶつくさと内心で文句をタレながらも、


さすがに首を刎ねられるのは困るので、黙って足を動かす。






忘れていた足の細かい沢山の傷が嫌に痛み出した。








しばらく男につれられ歩いてついたのは小さな庵。




男は障子の前に立つと小さく声を漏らした。





「学園長。忍び込んでいた外部のものを捕らえました。」






「うむ・・・入れ。」





中からかすかに聞こえてきたのは

おそらく老人のしわがれた声。




男がその声を合図に障子を開ければ、
中には黒と、数人だけ深い緑の衣服を見にまとった男たち。



そして、部屋の一番奥の座布団の上に腰を下ろしている

白髪頭のご老人。





何の集会だコレは。



どうやら、俺が逃げ込んだ場所は少しやっかいなところだったのかも知れない。







男に無理やり部屋に引き込まれると

そのまま座るように乱暴に体を押される。




いつの間にか両腕は後ろで縛られてしまっていた。




仕方なしに、おとなしく座れば

目の前にいるのはご老人。




状況から察するに、この集団のお偉いさんといったところか。






伸びた眉毛に、目が隠れ、その表情を読み取ることは少し困難だ。






「・・・さて、お主名前は。」






『・・・小稲(こいな)と、申しんす。』





とっさに、遊郭での名前を口にすると

老人はホウっと小さくつぶやき、片方の眉を上げた。










「小稲。それは本名ではないのぉ。その言葉遣い。そなた遊女か。」










ピリピリとした空気に、周りの視線がもろに突き刺さる。


なんとも酷く息苦しい空間だ。










それに、男、男、男。



部屋中、いるのは男ばかりである。




老人の言葉に控えめに頷けば、再び老人は同じ質問を繰り返す。





「して、お主の名は?」








おそらく本名を聞いているのだろう。


あまりここの人間に本名を語る必要性を感じなかったのだが


なにせ、周りの視線がいたい。



しぶしぶ俺は口を開く。




『冬真。と申します。』




ついでに廓言葉もやめさせてもらう。


あまり得意でないし。好ましくもないからだ。







「・・・ふむ。では冬真、どうやってこの地にたどり着いた?」











『・・・私は、遊郭を飛び出して着ました。』












「ほう。」





『追われていたのです。必死で逃げていたところ、建物が見え
できれば匿ってもらおうと近づきました。』




わけが分からない。



こんな所で意味も分からず、話をするのはいささか尺ではあったが



知られて困る話でもない。


嘘をつく必要も無いが、周りの態度はまったく持って気に入らなかった。




『しかし、近づく前に穴に落ちました。逃げられないと焦りましたが、
穴が向こう側へ通じていることに気づき、進んだところ、ここにたどり着きました。』








「・・・ふむ。穴・・・か。」







老人が頷くと共に、周りが少しざわつく。




「穴?また綾部じゃないのか?」


「それじゃああの女は本当に・・・」






「いえ。」



そこで声を上げたのは

私を連れてきた男。





「私がこの女を見つけたときも、そう答えましたが
見たところ、周りに穴らしきものはありませんでした。おそらく虚言かと。」




その言葉に、いっそう回りはざわつく。





なんで俺が嘘をつかなくてはいけないのか。


この男頭でも沸いてるんじゃないかと。
本気で切れそうになる。




分かったような口利きやがって腹立つなぁ〜





老人は、どうやら俺の言葉を待っているようで


じっと視線をこちらに向けたままだった。






『虚言などではございません。確かに私はここへ穴を通ってきました。』





そういってやれば、視界の端で男が俺を睨むのが見えたが無視。





「うむ。わしもソナタが嘘を言っているようには聞こえん。」





ほう。なかなか見上げたご老人だ。


伊達に歳は食っていないようで、話の分かるご老人である。






「・・・遊郭を飛び出したと言ったな。なぜそのようなことを?」





『・・・自分の自由がほしかったのです。
私はあんな下品な男たちの下であんあん啼くのはごめんですので。』






そうこぼせば、ご老人は一拍おいた後、大きく口を開けて声を震わせた。



「ホッホッホッホッホ!!なんとまぁ見上げた娘さんじゃ!」






ご老人の笑いに、周囲は比例するように冷たい視線のままだ。




「逃げて来たということは、他にあてもなかろうて。
そうじゃ、わしがこの忍術学園でそなたを匿ってやろう。」



「がっ、学園長!!?」





すぐさま、周囲は慌てたように声を荒げ、立ち上がる。




「こんな素性も知れぬものを、そのように簡単に信用しては!!」



「そうですよ!もしかしたらくノ一かも知れません!!」





「わしが決めたんじゃ!!異論は認めん!!」



「ですが、学園長!!これではあまりにも、」











「うるさーい!!決めたったら決めたんじゃ!!」










先ほどまでの、なんだか威厳のあった姿はどこへ行ったのか、


老人は駄々をこねる子供のように声を上げる。



「冬真。そなたも異論はないな。」




『はぁ・・・私はここにおいてもらえるのなら願ったり叶ったりですので・・・』




そうこぼせば、老人は機嫌よさ気にうなずいた。


その姿に回りも不満を顔に出しながらも口をつむぐ。







よく分からないが、結局のところ







俺は新しく居場所を手に入れたらしい。







何も分からないし。


なにやら怪しげなこの集団だ。


あっさりと受け入れたこの老人に不審感がないわけではないが




何故だかそれほどこの老人を疑う気にも慣れなかった。














やはり、世の中なかなかうまくいくもんだ。












老人以外の周りの人間に睨まれながらも



そんなことを思い、ホッと一息ついた俺は


たぶん心臓に毛でもはえているのだろう。





男にどう思われようと関係ないのだ。


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