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山崎さんに連れられてやってきたところは小さな畳五畳ぶん程度の部屋。


山崎さんはその部屋のたんすの引き出しからごそごそと着物を取り出していく。




『・・・あの、なんでそんなにいっぱい・・・』



「いやぁ、早瀬さんに選んでもらおうかと思いまして・・・。」



そう言いながらもいくつか着物を手に取り畳の上においていく山崎さん。
その姿をぼーとみつつ、少し困ったように頭をかいた。



いや、俺に選べっていわれてもな・・・


まぁ、今までの生活から分かるように
俺は女物の着物をめったに着たことがない。


実のところ自分にどんなものが似合うかとか、
ましてや今の流行なんかもわからないのだ。



俺が選ぶよりは、山崎さんが選んだほうが断然いいと思う。



「んーこんなもんかな・・・?。」



あらかた着物をたんすから取り出した山崎さんは「どれでも好きなものをどうぞ」
と、にこやかに笑みを浮かべる。
それに俺は内心困りつつも畳に散らかった着物を手に取り、物色してみる。






赤、青、黄色にみどり、オレンジや藤色。




どれも綺麗過ぎる着物ばかりで、少し気持ちが沈む。
とてもこんなものを俺が着こなせる気がしなかった。




俺の目から見ればどれも本当に綺麗過ぎるのだ。




着物を眺めつつもまったく見当もつかず困り果てていると
横からにゅっと手が伸びてきた。
少し驚いてその手の持ち主の正体を確認しようと後ろに振り向いた。







「アンタはこれでいいんじゃねぇの?。」




「あっ、隊長・・・。」





そう、総悟だった。


また、変な着物を押し付けてくるんじゃないか



そんなことがふと頭をよぎる。



はたして彼の選んだ着物はどんなものか・・・



視線を着物へともどすと
目に入ってきたのは紅色の着物。








少し、いや大分、


驚いた






まともな着物だ。





あぁ、良いんじゃないですか?早瀬さん肌白いし、
                      紅色は似合いそうですもんね。」



ふと思い出した。
たしかそんなことを前にも言われた気がする。


確か・・・


あぁ、そうだ、お登勢さんにたのまれてキャバクラに仕方なしにバイトに行った時だ。



「アンタこの前もこんなの着てただろィ。」



『あ・・・と・・。』



確かにあの着物のいろと同じ紅だ。




なんだか少しむずがゆくなった。



確かに紅は嫌いじゃない。
どちらかといえば好きな色。


だけど、前に着た時も思ったけど・・・



『・・・ほんとに、似合いますかね?俺なんかに・・・。』



少し苦笑い気味に横に立っている総悟を見上げた。





紅は、俺にとって少しまぶしいのだ。
綺麗すぎる。



汚い自分がより浮き立つのではないかと不安になる。



「・・・何言ってんでィ、んなこと気にしてんじゃねぇよ
                  着物なんて何でもいいじゃねぇか。」



あきれた表情で、小さくでこピンをかまされた。


「今更女みてぇにクヨクヨしてんじゃねぇよ。」



『はぁ・・・。』



少し、でこピンされたことに不満を持ちながらあいまいに返事をこぼす。



「別に、お前に美人になれなんて誰もいってねぇし、
             期待もしてねぇんだからパッと選びやがれ。」



少し、言葉に棘を感じるが・・・


まぁ、正論だし、
これ以上何もわかりもしないくせに悩んでいても山崎さんに迷惑だ。



『じゃ、これで・・・。』



「はい。それじゃあ、ここで着替えてもらえますか?
            俺、その間に他に必要なもんとってくるんで!。」



山崎さんは残った着物をたんすに入れなおすと立ち上がり部屋から出て行った。




『・・・・』



残ったのは総悟と俺の二人。



『あの、着替えるんですけど・・・』


暗に出て行けといったのだが
彼が出て行く気配は微塵もない。


ただ俺のことをじっと見ていた。


いや、これはもはや睨み付けるといってもいいのではないだろうか?






『あの・・・・』











「別に俺ァ 由良に似合ってたと思うけどねィ    ―紅。」













『は・・・・。』





無表情でそう淡々といってのけると


総悟は部屋を出て行った。





『・・・・この前といってること違うじゃん・・・・。』





気づいたら口元が緩んでた。





 


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bkm
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