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― ガラ ガラ ガラ ―




『ただいまかえりましたー。』




「おや、ずいぶんと遅かったじゃない・・・か・・・って
                 アンタ・・・何かあったのかい?。」


やっとのことでお使いを終え、帰って来た俺を見て
お登勢さんはくわえていたタバコをポロリと床に落とした。



『・・・ハハハッ・・・。』



傷だらけの体で苦笑いをうかべた俺に、お登勢さんは溜息を吐いた。



「まぁ、いいけどねぇ・・・怪我、手当てしてやるから奥に入りな。」



『すみません。』



少し申し訳ない気持ちになりながらお登勢さんの言われるままに
店の奥へと足を運んだ。




奥に入ってすぐに右手側に引き戸があった。
お登勢さんは 戸を開けるとさっそうと中へ入って行った。


少し遠慮がちに部屋へと続くと


さながら休憩所とでも言ったところか
畳 四畳半ほどの小さな部屋に

これまた小さなタンスやちゃぶ台が置いてあった。



「ほら、そこに座んな。」



つっ立っていた俺にお登勢さんはそう短く吐き捨てると
小さなタンスから木箱を取り出した。


中にはキレイに 包帯や消毒薬が並べられていた。



「少し染みるかもしれないけど・・・男なんだ 我慢しな。」



そう言って消毒薬を俺の怪我の傷口に付けていく。



『って!。』



腕の部分を消毒されている最中。
今までとは比べ物にならない激痛がはしった。



「こりゃあ切れてるねぇ・・・。」



そうポツリとつぶやいたお登勢さんの目線の先を辿ると
お登生さんがつぶやいた通り、少し大きめの傷口が目にはいった。



「ったく・・・本当にいったいなにしてたんだい?。」



少し呆れた顔をして言うお登勢さんにますます申し訳なくなった俺は
眉を八の字にして苦笑いをうかべた。



『すいません。お手数をおかけして・・・。』



そう言うとお登勢さんはピタリと作業を止めた。



「・・・アンタ 迷惑かけたからアタシが呆れた顔してると思ってんのかい?」






それは 良く分からない質問だ






『・・・他に何かありますか?。』



首を傾げて見せる俺に、お登勢さんは深い溜息をついた。



「ったく・・・アタシはアンタを心配してんだよ。」







『・・・。』







それを聞いて 少し息が詰まった



『・・・心配・・・ですか・・・?』



「そうさね。」



聞き返した俺の返事に答えながらも
お登勢さんはまた俺の傷の手当を再会した。


少し大きめの傷口に 丁寧に包帯を巻く様を見て ポツリとつぶやいた。



『・・・どうして・・・そんな?俺と会ったのは昨日なのに・・・。』



「・・・昨日会おうと今日合おうとねぇ
    これからアタシの世話になるって言う輩だったら。
             心配の一つや二つ しちまうもんだろ?。」



包帯を巻き終えたお登生さんは不適な笑みをうかべて俺を見た。



「それにねぇ。アンタやキャサリンはもうアタシの娘や息子同然なんだよ。」



『っ!』



不覚にも零れそうになった涙を
俺はグッとこらえた。




「迷惑だったかい?。」




『ハハッ・・・とんでもないですよ。』




少し目を細めて俯いた



『心配・・・か・・・なんだか 暖かい響きです・・・。』



「フフッ・・・早く店の方に来な やることは沢山あるんだ。」



俺のつぶやきを聞いたお登勢さんは
微笑をうかべ 部屋から出て行った。



『・・・暖かいなぁ・・・。』



部屋を出て行ったお登勢さんの後ろ姿を目に焼き付けて 顔を上げた。

右目から一滴ほど、流れた水は頬を伝って静に落ちていった。




 


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bkm
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