兵太夫の機嫌がすこぶる悪い。
















そりゃあもう、
眉間に寄るシワが
隠せないほどに悪い。











三治郎も三治郎で、
いつも通りのニコニコ笑顔だけど






どこか、
寒気を感じさせる雰囲気がある。









それくらいに
二人とも機嫌が悪いのだ。












理由なんて分かっている。

まぁ、団蔵がやらかした例のアレだ。











「きりちゃん。
今日は空気が重いよ・・・」




「だなー・・・。」




「そお?。」










なんてことは無いと、
お菓子をほおばるしんべヱには



はなから期待なんてしていない。










「しっかし、まぁ・・・
苗字が隙ありすぎるのが
問題なんじゃねーの?」






「・・・うん、そーかも・・・。」






あきれたようにつぶやくきり丸に
私も同意する。









先生が
足を怪我した時も思っていたが・・・



あの人はちゃんと男と女の力の差とか




分かってるんだろうか。









「隙が多いっていうか、
そもそもあの人俺らのこと

完全に生徒としてしか
見てねぇーからなぁ・・・」







きり丸の言う通りだ。





確かにそれは正しい考えである。





しかし、生徒である前に男だ。





生徒と教師なんて
ただの肩書きくらい、
どうにでもなってしまう。




あの人は、教師という肩書きに

なぜか絶対的な
安心感のようなものを
持っているように感じる。







教師だからこんなことは無いだろう。



教師だからありえないだろう。









そんなまったく確信もない
ちっぽけな肩書きを信じているのだ。











そんなもの、
僕たちが守るわけもないのにね・・・









「おい、乱太郎。しんべヱ。」








思わずため息をついていると、




ふいに
きり丸が私たちの
少し先のほうを指さす。







なんだと目をむければ




兵太夫と喜三太の二人だけ

という奇妙な組み合わせ。










なにやら一触即発的なムードである。









「僕だったらそれだけじゃ
絶対物足りないって思うけどなぁ〜」







「・・・ほんっと、喜三太って
間接無しだよね。誰でも言い訳?」






「誰でもいいわけじゃないけど〜
とりあえず
名前ちゃんはいけるかな〜。」







「なにそれ・・・
そんな目でアイツのこと見てたの?」







「ん〜だってさー
あんなに隙が多いからー
ちょっと
悪戯したくなっちゃうよね。」








なんちゅうー会話をしているんだと、



こっそりと盗み聞きのような形で
二人を見守る私たち。





「ちょっと、きりちゃん!
いいの?!アレ!?」






声のボリュームをしぼりながらも
あせったように声を出せば



きりちゃんも何とも言えないような
微妙な表情を浮かべる。







「んなこといってもよぉ・・・
俺にはあの中に入る勇気はない。」







まったくもってその通りではある。





私もあの中には入りたくない。






しかし、・・・なんというか・・・









「会話の方向性が・・・徐々に」







「あぁ、・・・危ないな・・・。」












未だに絶えず
しんべヱの口元からなり続ける
お菓子を租借する音に、

今は少し救われている気がした。












「そのうち誰かにペロッと
食べられちゃったりしてね。」









去り際にケラケラと
笑いながら手を振った喜三太に





私はその口を塞いでやりたくなった。







頼むから、
兵太夫をからかうのは

やめてほしい・・・








楽しそうに
笑みを浮かべる喜三太とは
打って変わって




兵太夫にもはや表情は無かった。















喜三太の言う"そのうち"

が、来ないことを


ただただ天に祈るしかなかった。














「きりちゃん。しんべヱ。
私、さっきプリントを
兵太夫に渡すよう

土井先生に頼まれたんだけど・・・」







「・・・俺は行かないからな・・・」



「・・・僕も・・・・」
















世の中神も仏もいやしない・・・・






 


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