act.15 先生が朝帰り

なんだか体がフワフワしていて、陽だまりに包まれているような

そんな心地よい暖かさを感じた。









不意に、頭をなでられる感覚。


そして、優しく髪をすかれる。




あぁ、なんだか随分と気分が良い。



















耳元で、衣擦れの音がする。




頭が覚醒してきたようだった。


程よい明るさに自然と目蓋が開く。






『ん・・・・。』








「お、やっと起きた?」








起き抜けに聞こえたのは男のような低い声。











『・・・・・。』









「はは、まだ寝ぼけてんのか?」









あれ、ここはどこだ・・・?




私の部屋じゃないのか・・・?





ムクリと起き上がり、座り込んだ姿勢で



白いベットのシーツをなでてみた。





ツルツルしていて少しひんやりとしてなんとも肌触りが良い。





私のベットはもう少しごわっとしていた気がする。



第一、シーツの色が違う。私の部屋のベットシーツは薄黄色だ。












いよいよわけが分からない。




あれ?ここはどこだ。







ボーっとしてどうにもまったく働かない頭で思考をめぐらす。





ふと、大きなゴツゴツとした手に、前髪を横に流され


少し見えにくかった視界がクリアになった。





「おはようさん。」




ニカリと、爽やかな笑顔が目の前いっぱいに広がる。






んん?なんだ。




この笑顔には見覚えがあるぞ・・・



あーっと・・・


んー







あぁ、そうだ・・・






『ハチ・・・』





さん。




と、いいかけた言葉は


見事に最後まで声にはならなかった。






『んっ・・・。』





ものすごく自然に。



それはもうほんとに自然に。





私の声とともに唇を奪われてしまった。




















「朝飯、簡単にだけど作っといたから。それ食ってから送る。」








放心状態の私に、


離れた唇を親指で優しくひとなですると、


ハチさんがそういった。













『え、』







え?




な、なんで?



え?え?え?












一気に頬に熱を感じたのと同時に、


眠気も吹っ飛び、思わずその場に立ち上がる。








『な!な、な、な!!?』




まったくもって言葉にならない声が、

パクパクと魚のように口を動かす私の口から飛び出した。






無意識に右手の甲で自分の唇を押さえる。





な、何事!!?






What happened?







『な、なんで!?』






ベットに立ち上がった私は



今だベットに腰掛けた体制で私を見上げるハチさんに



精一杯の今の気持ちを伝える。






「なんでって・・・・あー慎ちゃん昨日のこと覚えてねーの?」





少し驚いたように目を丸くするハチさん。





き、昨日のこと!!?




なんですか、その意味深な感じの表現!!




覚えてないし!!ていうか、はっ!!?







一瞬頭をかすめた考えにパッと今の自分の格好を確認する。







ふ、服はちゃんと着てる・・・し、下着もちゃんとつけてる。




いや、唯一はいてたストッキングは
ベットの端に投げ捨ててあったのが見えたけども・・・





だ、大丈夫なはずだ。そ、そんな不貞は働いていない・・・はず・・・





あせったように自分の身なりを確認し始めた私の考えを


瞬時に理解したらしいハチさんは小さく笑いながらベットから立ち上がった。





「ほんとに覚えてねーんだ。」






そして、リビングらしき部屋へ足を運んで行ってしまった。






お、覚えてないって何!?



だ、大丈夫だよね!!!?な、何もなかったよね!!?






あわててハチさんの後を追いかけて、その大きな手をつかむ。






『な、なんか!!私とありました!!?』





ハチさんは、私に手をつかまれたままゆっくりと振り向き。

切羽詰った顔の私をその視界に移した。






そして、もう片方の手で私の鎖骨をそっとなでる。




その、手つきに一瞬息がつまり、


背中が大きくざわついた。









「なんか・・・って、何?」









なんとも色気を感じさせる声で、



口角を上げながら、いじわるい顔つきでハチさんはそう言った。







『だ、だからっ!!そのっ!!』



そういうことじゃないですか!!




「何?」







『な、な・・・・い、言わせんなアホ!!』





年上の、しかもまだ知り合って日の浅い人であるにもかかわらず





口からついて出たのはそんな暴言まがいの言葉だった。










「ハハハハハッ!!」



しかしまぁ余裕たっぷりに声を上げて笑い出すハチさん。





私は眉間に盛大にしわを寄せてその顔を睨み上げる







「ほら、早く飯食って帰ったほうがいいんじゃねーの?
慎ちゃん寮生活なんだろ?」







そういうと、ハチさんは完全にリビングに向かい、身支度をし始めた。






こ、このやろぉ!!



結局のところ教えろよ!!




大丈夫だよねぇ!!?



冗談でしょ!!?








叫びだしたい気持ちをグッとこらえ、ハチさんの後をおって


リビングにつくと、トーストとコーヒーののったテーブルにつき、



今は黙ってありがたく朝食をいただくことにした。












そうだ、今はこいつの言うとおり、早く帰らなければいけない。





やばい、教師が朝帰りってしゃれにならん。


今日が土曜日で、休みの日で良かったと心底思った。










どうにかして吉野先生に気づかれないように帰宅しなければ・・・






まぁ、おそらく夜出かけたときも門近くの
事務室にいたのは小松田さんだったし。




問題はなんとかして小松田さんにこのことを無かったことにしてもらうことだ。









私の唯一の親友なんだろ?小松田秀作!!





なんとかしてくれ!!

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