6

「せんせー。どんな方法つかったのー?」





『あぁ?何が?』






平和に終わった。



その日の放課後、



教室に居るのは私とカバンを背中に背負って


すでに帰る準備は万端の夢前。





「何がって、団蔵たちのことじゃん。」




『あぁ、テストの点数?』




「そーそー、あの3人に勉強させるって相当なことだよね。」




う〜んと、眉間に少しシワを寄せて、

腕を組んで、考えるようなしぐさをしてみせる夢前。




『・・・まぁ、あいつらも3年だし。心でも入れ替えたんじゃないのー』




「えーそりゃ無いって!だって英語以外はあの三人いつも通りだったよ!」





あー、まぁそりゃそうだわな・・・。




『んなこと聞かれても、別に私はなんもしてないしー』




「ふーん・・・」



まだ腑に落ちないという表情で、探るような視線をむけてくる夢前。




それに、私はそこまで不自然ではない程度に目をそらす。





「なーんだかな〜・・・」




小さくうつむいて不満げにそうこぼす夢前。



『何。』



「なんか、アイツ等ばっかせんせーと仲いいみたいでずるいじゃん。」




なにいってんだこいつ




『何、もっと笹山としゃべれとか言いたいわけ?』




ちょっとめんどくさげに投げ捨てるようにそうこぼす私。




なんか、笹山と私の仲を応援するみたいなことを前に言っていたのは

夢前だからな・・・めんどうなことにも。




しかし、私のその問いに、夢前はいっそう眉間のしわを濃くする。




「・・・べつに、そんなこと言わないし、・・・ただ、」




『・・・ただ?』




「・・・もう、ちょっと、僕にかまってくれてもいいじゃん・・・」







・・・・・・。









『・・・は。』







ぼそぼそと、本当に小さな声でつぶやいた夢前の声は



小さいながらも、私たち2人のほかに誰も居ないこの教室に響き


しっかりと私の耳に届いた。











『・・・ぷっ、な、何それ・・・餅焼いてんの?』




不覚にも、可愛いとか思ってしまい、噴出した。





「笑うなよなー・・・。」



ちょっと照れくさそうにしながらも眉を寄せる夢前。




私は小さく肩を震わせて笑いながら、教室の扉へと

荷物を手に持ちながら歩いていく、




『ほら、もうお前も帰れ。』




まだ少し笑いながら、


扉の前まで来て廊下に背をむけて
教室内で立っている夢前のほうへ体をむけて口を開いた。





「・・・せんせー。やっぱ、あの時僕が行ったこと無し。」




『はぁ?』



「やっぱアレ嘘!」




『なんの話?』




「わかんないなら別にいいよ。」




今ここでいってくれりゃあいいじゃんよ。



不思議に思いながらも、


特にそこまで気になるわけでもないので



『・・・ふーん。』



と、小さく返事をこぼしておいた。




ま、とりあえず、私も教室を出ることだし。




『夢前も早く帰れよ』



と、口を開こうとした時、





「あ、」





という、少し驚いたような夢先の小さなつぶやき、


そして、私の後ろへとやられた視線に

すぐさま反応できるスーパーマンでも私はないわけで、




突然両脇からにゅっと出てきた男の手に


声も出なかった。





「慎ちゃんとったりー!!」





加藤の声が耳に近く聞こえ、胸に大きな違和感。




ぐにゅり




あえて音を付けるならそんな感じ。





『のあああああ!!』



な、な、な、な



『なああ!!?』



「ふっはー何それ言葉になってないし。」



混乱も混乱。



大混乱である。




未だ耳元で聞こえる加藤の小さな笑い声に、

私の胸元で動きを止めないその手。





あまりの出来事に、持っていた荷物を床にぶちまけ、



殴りたくなるほど厭らしい手つきの加藤に抵抗するべく

私の脇から生える腕にしがみつく。




『な、何やってんだテメェ!!どつくぞ!!!』




「何ってさー約束したのは慎ちゃんのほうでしょ?」




加藤の力が強いのと、私に力が入らないのとで

現在進行形で胸を揉んでいる加藤の手を止められるわけもなく、



じたばたと大声を上げる。



『やっ、やめろ馬鹿!!っ、なぁっ。』



加藤によって形を変えられる自分の胸。



しかも、目の前には唖然と口を開けたまま立っている
夢前の存在を思い出し、私の顔がカッと熱を持つのが分かった。



まてまてまてまて。



いや、ちょっとまって



マジで!!




まさか、こんな強行突破に出られるとは思わないって!!!



て、てて、ていうか!!なんか加藤がいつものへタレじゃなくね!?




「なんかあせってる慎ちゃんって可愛くね?」




耳元でささやく加藤にもう私の頭の中は爆発寸前である。



何?これ?



どういう状況?



てか、コレ本当に加藤かコレ?




『て、てめっ、ぁじで、なっ、殴る・・・っ、』



のどから声を絞るようにそうこぼせば、




「もうちょっとその顔みてたかったなぁー」




という、なんか物騒なつぶやきと共に離れる手。




思わず私はその場に倒れるように座り込んだ。





な、なんたる屈辱・・・



年下に、乳もまれたっ・・・




「明日は虎若か、金吾がくるかもな〜」




そう、怪しい笑みを浮かべた加藤の前に、



私をかばうように夢前がたった。




「何してんの団蔵?」



ニコニコとした彼の笑みは未だ健在である。



「あれ、三治郎いたの・・・。」




そして、クラスメイトとの遭遇に若干バツが悪そうに後ろ頭をかく加藤。



「約束ってさー・・・・何?」




明らかに変った空気に加藤もピシリと動きを止めた。




「そ、それはまぁ、その・・・アレだよね・・・・じゃ!!」



部が悪いと感じたのが、馬のごとく廊下を走りぬけ


加藤は逃げていった。




「・・・。」




『・・・・。』






再び教室にのこったのは座り込んだ私と、


笑みを浮かべていない夢前。




夢前は、立ったまま私を見下ろすと、



話しをするためか自分の腰をおった。
















「俺が言うのもなんだけどさぁ・・・」








耳元にかかる夢前の息に少し背筋が粟だった



いつのまにやら、

君、一人称"俺"でしたっけ・・・・








「俺がキスしたときもそうだけどさ、
せんせーあんま無防備だと・・・・
























そのうち俺が食っちゃうよ?」













『っ、・・!?』










最後に小さく笑みを浮かべた夢前は、静かに教室を去っていった。















な、なんだアレ・・・









『こ、こえぇ・・・』















今日ほどまでに、年下に好かれる自分を呪ったことは無い・・・











もう小松田さんでもいいから助けてくれ・・・・

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