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とりあえず。


大方の出場種目は決まったようで、


今はすでに同じ競技に参加する者ごとに別れ、
もう練習がどうのなどと予定を組んでいる様子。



なんだこの異様なまでの熱気は・・・

いつになく真剣ムードな教室の空気に反比例するように
私のやる気的なものは冷めていく一方だった。



LHRの終わりを告げるチャイムが鳴る。


要するに今日の授業はコレで終わりなのだが・・・

いつもならチャイムがなればすぐにでもワラワラと
教室を出て行くはずなのだが、


チャイムなんて聞こえていないようで、
皆なかなかに念入りに話し合いをしている。



しかしまぁ、そこまで担任が付き合う必要もないだろう。


『生徒の自主性に感動するよ・・・』


誰に聞かれることもなく、ポツリとそんなことをもらして席を立つ。



仕事しよ、仕事。






人知れず、というか生徒知れず?
教室を出て一歩目と同時に小さく溜息。



なんかこう、周りと自分のテンションの差に疲れるのだ。



『なんだこの疎外感・・・』



別に寂しくなんてないし。





一人心の中でそんな言い訳じみたことを考えながら職員室を目指す。




「あ、柏木先生。」


そこで出会ったのは我がクラスの副担の土井先生。
ちなみに担当教科は数学。



『土井先生。授業終わった帰りですか?』


「えぇ、そういう柏木先生も。
          体育祭の種目決めは順調ですか?」



まぁ、順調すぎるというかなんというか・・・


微妙な顔をしている私に、何か思うところあったのか
土井先生はクスリと小さく笑みをこぼした。



「柏木先生はこの学園の体育祭ムードについていけないようですね。」



『まぁ、なんかね・・・やっぱ年の差ですかね?』



今時の高校生のテンションについていけないというか?


「というか、うちの高校の生徒はどいつも負けず嫌いなんですよ。」


『はあ。』


「だから、こう・・・勝負事って言うのには
                 いっそう気合が入るんです。」



ようするに、こんなに気合の入った体育祭は
たぶんウチが特別なんだろう。


男子校だしな。男の戦いだ。




『土井先生はやっぱウチのクラスに勝てほしいとか思ってたり?』


「まぁ、負けるよりは優勝を目指してほしいですよ。」



そりゃそうか。



「・・・でも、やっぱり1組だけには
           負けてほしくないというか・・・」



『1組・・・?』


「あ、いや!べ、別になんでもないです。気にしないでください。」



ハハハとなんともぎこちない笑みを浮かべてごまかす土井先生。


んー・・・思い当たる節といえばあるっちゃあある。



1組、特進クラスの担任は安藤先生。

これまた土井先生と同じ、担当教科は数学で


小テストやらの点数でなにやらいつもいがみ合っているのを見る。



先生同士にもそういう勝負(?)があるのだろう。



「柏木先生は、・・・そんなにはりきってないですね
                     ・・・やっぱり。」



『なんか和の中に入っていけない感じがありましてですね。』



勝負事はまぁ、やるからには勝ちたいとは思うほうなのだけども、
私はあくまでも教師側であって、
競技に参加するわけでもないし。

土井先生のようにいつもいがみ合ってる先生もいないから

いまいち張り合いにかけるというか・・・


競う相手がいない感じなのだ。



『ま、正直色々めんどくさいですしね・・・。』


再び出そうになるあくびをかみ殺しながらつぶやく私に、
土井先生は苦笑いをこぼす。




「あ、土井先生・・・」



不意に数歩少し先の廊下の曲がり角から聞こえてきた声。



「おぉ、伝七、左吉に一平。」



土井先生の口から出た名前に、その生徒たちに視線をむける。



スッと目鼻立ちが通った美人顔でいかにも利発そうな顔つきの生徒。

それから、気の強そうにキリッとした少しつり目気味の
これまた男前。

そして前二人とは少し違った雰囲気の
ぽや〜っとした顔の、若干山村と同じにおいを放つ生徒。



どこかでみたことあるんだけどな〜

少し頭をひねって記憶をたどってみる。



『あぁ、1組の特進クラスの・・・』



3−1の英語は担当ではなかったので
少し思い出すのに時間がかかった。



「あなたは・・・」



土井先生へと向けられていた彼らの視線は
私がポツリと声をもらしたことにより、こちらへとむけられた。



「確か新任で英語の・・・」


「柏木先生だよ。」



私が何者であるのかしっかりと確認した彼らは
心なしか鋭い目つきで私を見る。



「はじめましてですね。僕は黒門 伝七といいます。」


「僕は任暁 左吉。」


「僕は上ノ島 一平っていいますぅ。」



『はぁ、どうも・・・ご存知の通り柏木です。』



彼らの丁寧な自己紹介につられて私も生徒相手に敬語で話す。




んー確かにしゃべり方からして頭がよさそうだ。

気品がにじみ出ていらっしゃる。


まったくもってうちのクラスとは大違いである。




「・・・柏木先生は確か今あの3組の担任なそうで?」


「大変でしょうねぇ・・・」



少し癇に障るような表情でそうこぼす黒門と任暁。



『まぁ、確かに大変だけど・・・楽しくやれてると思うけど?』



少しめんどくさくなって後ろ頭をかきながらそう言えば

すぐに興味のなさそうに小さく挨拶をしてから
私と土井先生の隣を通り過ぎて行った。




『なんすか、あの若干癇に障る餓鬼共は・・・』


少し不満げにそうつぶやけば

再び土井先生の苦笑いが帰ってきた。




なんだか生徒というのも担任に似るのだな・・・


と、安藤先生の脂ぎったテカテカの顔を思い出して
そんなことを考えた。


いやみったらしいところがそっくりだ。

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