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『・・・あの。何か・・・・』




腕を掴まれたものの、彼は視線を私の腕に注ぐばかりで
口を開こうとしない様子。


わけの分からない沈黙に気まずさを覚えた私は眉間にシワを寄せる。




「柏木先生・・・その・・・この腕の傷・・・」



そう言われ、ふと久々知先生に現在進行形でつかまれている
自分の腕に視線を向けてみる。



そこには、もうずい分古傷ではあるのだが、

確かにまだ少し赤みを残した傷跡が。



『あぁ。』



確か、コレは高校時代にできた傷だ。


詳しいことはもうあまり覚えていないのだけれども。

少なくとも、私の高校時代の中で一番の怪我だったということは
確かに覚えている。


『んーなんというか・・・高校時代にちょっと、
            不良の喧嘩的なものに巻き込まれて・・・』



なんとも歯切れ悪く言ってみせる私に、

久々知先生はよりいっそう顔をしかめた。

何?
なんなの?


言っときますけど、私が喧嘩してたわけじゃないですからね。


目つきも悪く。噂だけが一人歩きしていた私を
仲間だと思い込んでいる周りのいかつい顔した不良どもに

他校との抗争?的なものに
半強制的に連れて行かれた時にできた傷だ。


たしか、他校の不良のやつに
思いっきり殴られて、軽く吹っ飛んだところにあった

金属の破片でパックリ皮膚を切ったのだ。



その時のこととか、もちろん私を殴ったその他校生徒の顔なんて
まったくもって覚えていないのだけど、


自分の腕から見たこともないような量の血が流れ出てきたこととか。
感じたこともないような激痛に。

言いようもない"恐怖"というものが湧き上がったことは覚えている。



今思えば、その他校の不良は、よくもまぁ女である私に
容赦もなくこぶしをふるったもんだ。



「そ、その・・・相手のこととか・・・」


なぜは分からないが必要にこの傷のことを聞いてくる久々知先生。


ひょっとしたら体調の悪い私よりも、
今は彼のほうが顔色が悪いのではないだろうか?



『んなのもう覚えてないですよ・・・自分のことで
いっぱいいっぱいで他人の顔なんてほとんど見てなかったんで・・・』



なんだか少しめんどくさくなってきて、
ちょっとばかり眉を寄せながら投げやりに口を開く。


「そ、・・・・っか・・・。」



久々知先生は、なぜか安心したような、それでいてやはり気まずそうな
なんともいえない複雑そうな笑みを浮かべた。



「・・・体調、悪そうなのに引き止めてすいません。
  部屋まで送・・・らないほうがいいかな・・・。」



そのまま気まずそうに後ろ頭をかく久々知先生。


『え?』



なんだ?ごまかせたと思ってたんだけど

私が久々知先生を故意的に避けてたのがばれたのだろうか?




「いや、たぶん・・・俺がそばにいないほうがいい・・・。」




な、なんだ?
ばれてるのか?


なんでそんなに久々知先生が申し訳なさそうな表情をうかべるのか

まるで理解できなかった。



『えと、あの・・・別に本当に体調が悪いだけであって・・・』



少し焦り気味に誤解・・・でもないのかもしれないが・・・

まぁ、とにかく悪い印象になってしまってはいかんと、
ゴニョゴニョと弁解を口にするも


「うん・・・分かってるから・・・。」



と、久々知先生はやはり苦笑いを浮かべるだけだった。



なんだか納得がいかないような気がしたけど、

これ以上グダグダやってても疲れるだけだ。


仕方なく、私は久々知先生に一礼してから自分の部屋へと向かうべく

再度足を動かした。




「・・・きっと体が覚えてんだろうな・・・」



彼のそんな小さな呟きが私の耳に届くはずもなかった。

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