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胃をおさえたまま、職員室へ戻ると土井先生と目が合った。




「柏木先生?・・・どうしたんですか、
            なんだか体調が悪そうですけど・・・。」




心なしかよたよたとした足取りで自分の机まで歩く私を
心配した様子で土井先生に声をかけられた。



『いや、・・・なんか胃が気持ち悪くて・・・』



そう声を絞れば、土井先生は眉を八の字にさせた。



「やっぱり、ストレス・・・ですかね。」



ストレス・・・



そうか、ストレスだ。



土井先生の言葉になんだか納得できた。

これはおそらくストレスだ。


しかし、何にストレスを感じる要素があったのだろうか?


福富の面倒を見たことに、こんなにもストレスは感じないだろう。




正直何も分からないのだが体調が悪いのは分かる。



『は、早めに仕事きりあげよ・・・』


そうつぶやいて椅子に座り、小テストの丸付けを開始した。


「今日は早く休むといいですよ。」


『はい。そうします、』



背中を丸めながら採点を始める私に土井先生は苦笑いを浮かべていた。
















『・・・ふぅ。』



数十分後。


ようやく採点を終えた私は、
赤ペンでチェックのついたプリントが多いことに
少し頭を悩ませながらも体をほぐすようにグッと腕を伸ばす。



よし、今日はもう部屋に戻って寝よう。

少し重たい体で荷物を手に立ち上がる



『そんじゃ、お先に失礼します・・・。』



「あぁ、お大事にね。」


土井先生は優しい笑みを浮かべ、手をふった。







職員室を出るとのろのろとした足取りで職員寮へと向かう。
本当にどうしたものか・・・


柄にもなく少しネガティブになって廊下の壁に寄りかかる。

少し足が痛み出した。



走らんかったらよかった・・・

少し前の自分に後悔しながらもいや、仕方がなかっただろうアレは
などと自分で突っ込んでみる。


すると、



トン


と、軽く肩をたたかれた。


少し驚いて肩をピクリと動かしてしまったが、
ゆっくり視線を後ろへ回した。



「どうかしましたか?体調よくなさそうですけど・・・」



『あ、』





視界に飛び込んできたのは久々知先生だった。





ぐえぇ・・・


何でいんの・・・




もしかしたら眉間にシワがよっていたのかもしれない。
久々知先生は少し苦笑い気味に口をひらいた。


「しんべヱの補習も終わって、俺も部屋に帰るとこなんです。」



『そ、・・・すか。』



やっぱり目を合わせることなくそっけない返事を返す私に
久々知先生は少し困ったように後ろ頭をかいた。


その行動に少し申し訳ない気持ちになる。



迷惑な話だろう。
理由もわからずなんだかそっけない態度をとられるなんて・・・



『な、なんかすいません。今日はちょっと体調がよくないみたいで・・・』


とっさに体調のせいにして取り繕ったように笑みを浮かべた。


「そっか・・・俺、なんかしちゃったのかと・・・」


私の言葉を信じて安心したようにホッと息をつく久々知先生に
また良心がチクリと痛んだ。


久々知先生はふーっと息を吐くと
そのまま白衣の胸ポケットに手をのばしてから

なにやらハッとしたように胸ポケットから手をどけた。
その動作をなんとなく見ていた私に気づいた久々知先生は

少し気まずそうな表情を浮かべた。

もしかして・・・



『久々知先生って・・・タバコ吸ってたんですか?』


もしくは禁煙中とか・・・




昔吸っていた私もたまにやってしまうのだ。
タバコってよく胸ポケットとかに入れるから


「あー、いや・・・まぁ、そうです。」



言葉を濁しながらばつが悪そうに視線をそらす。


『見かけによらず元ヤンとか・・・』


なんとなく冗談でそうポツリといえば


「え゛っ」


と、いうなんとも分かりやすい反応が返ってきた。

あれま、冗談だったのにな・・・まさかの図星。




人は見かけによらんもんだ。



そんなことを考えていると久々知先生は焦ったように口を開く。



「い、いや!ち、違いますから。別に、ホント!。」



『そんな焦んなくても・・・別に言いませんよ。』



他人の過去になんてさして興味はないしね。



「いや、・・・あ゛ー」



困ったように目頭を押さえてうなる久々知先生に少し笑みがこぼれた。



今はそれほどこの人に苦手意識はないみたいだ。

いや、少し大丈夫なだけで苦手なのには変わりないけども・・・



すると、小さくうなっていた久々知先生は
いきなり顔を上げると

じっと私の顔を見つめる。




「柏木、・・・柏木ってもしかして・・・」




それから何かボソボソとつぶやいているようだが
よく聞き取れない。


しばらく不思議そうにその光景を見ていると
久々知先生はハッと何かを思い出したようで

一気に顔色を悪くさせた。



『・・・?どうかしました?』



「あ、いや・・・その、べ、別に何も・・・」



明らかに挙動不審ではあるが、私はとにかく早く部屋に帰りたかった。



『・・・じゃあ、失礼します。』



小さく頭をさげてまた廊下をのろのろと歩く。



胃が気持ち悪いわ足は痛むわで

汗が少しにじんでくる。


ジャージの袖を肘の辺りまで上げて少し気合を入れて
一歩一歩あるく。




すると、



パシリッ





不意に腕をとられた。



驚いて振り向けば

少し焦ったような表情の久々知先生。




その視線は彼が今掴んでいる私の右腕。









何?腕フェチとかっすか?

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