act.10 先生と大食漢と先生

「だからさぁ〜やっぱり僕は
    福屋のシュークリームが一番おいしいと思うんだよねぇー。」






うんうん。と強く頷く彼に私も少し味を思い出してみる。

確かに、ここらへんでは
シュークリームはあそこが一番美味しいだろう。


やはり、なかなか彼と私の味覚というのは似通っているようで
この手の食べ物の話は彼とよく意見がいっちする。



『ん〜確かにあそこのは美味いですよね。あ、そこの近くに
              新しいケーキ屋できたの知ってます?』



「あー、ノルドでしょぉ?知ってる知ってる。
                あそこって美味しいの?」



『私も行ったことないんですけど、
    噂によるとなかなか美味しいらしいんですよねー。』



昔からの腐れ縁である友人の顔を思い浮かべる。


遊園地の時もそうだが、私の友人は基本人の話を聞かない
まさしく『迷惑』という文字を人間にしたような人物なのだが

やはり長年連れ合っていたせいか食べ物の趣味は合うので
情報に信憑性はあると思う。






「・・・・・」





「ほんと〜?じゃあ次はそこ行こうよー!」



『ですねー小松田さんならそう言うと思ってました。』



「えへへ〜」




うれしそうにユルユルと笑みを浮かべる小松田さんにつられ
自然と私の口角も上がった。



しかし、さきほどから感じる視線が気になりすぐにそれもひっこめる。





「・・・・。」




ちらり、と横目で確認してみると

何か言いたげな土井先生の顔が。



『なんですか。』



少し眉を寄せてそう言えば、
土井先生はヒクリと一瞬だけ口元を振るわせた。



「いや、柏木先生と小松田君は
         いつのまにそんな仲良くなったのかと・・・」



あぁ、それでか・・・と少し納得。


職員室で小松田さんと話し出した時から、土井先生以外にも
こちらを興味深そうにチラチラと目を向ける先生方が多くいたのだ。



「ん〜なんか先々週くいらいのお休みの日に、
                偶然お店で会ったんですよぉ〜」



「お店、ですか・・・?」



「そうです。パフェの専門店だったんですけどー
そこに慎ちゃんが一人でいるからびっくりしちゃって〜」



『いやいや、私としては
    小松田さんも一人で来たことにびっくりですよ。』



普通男の人が一人でそんな店には入りにくいだろうに。


ほんとにアレは驚いた。



「だからちょうど向かいの席に座らせてもらって、
       色々お話してたらなんだか意気投合しちゃって〜」



小松田さんはいわゆるスウィーツ男子だったようで。
なんだかんだよく甘いものを食べる私と気があってしまったのだ。


『それから良く二人で店巡ったりするようになったんですよ。』



そう説明すれば土井先生は
なんとも意外だというような表情を浮かべる



「柏木先生って甘いものとか好きなんですか?」



『んー昔は別に嫌いじゃないって程度だったんですけどね。』



社会人になってから
なんだか甘いものを無性に食べたくなるようになってしまった。


そんなことを若干苦笑い気味にこぼせば
土井先生はなんだか分かると、微妙な表情を浮かべ
胃の辺りを押さえる。


やっぱりストレスなんだろうか・・・




「やっぱり意外ですよねぇ〜」


小松田さんは土井先生に同意を求めるように首を少し傾けた。



「え、あー・・・ま、まぁ」



じゃっかん私のことを横目で気にしながら言葉を濁す土井先生。


なんだよ。そんならいっそのことはっきりとうなずいてくれ。



『なんか、それ。失礼じゃないですか?』



眉間に少しばかりシワをよせて見ても
小松田さんはなんと言うこともなく口をひらいた。



「慎ちゃんって結構目つき悪いからさー
あんま甘いもの食べるイメージとかなかったんだよね〜」



とりあえずこの人はなんかこう、

"オブラートに包む"的な表現を覚えた方がいいと思う。



いまだ不満げな表情を浮かべる私に
土井先生は苦笑いをこぼした。



「さぁ、そろそろ始業のチャイムが鳴りますよ。」



職員室でクッチャベッていた私たちに
少しあきれたような笑みをうかべた山田先生が手を叩く。



確か今日の一限目は1年生だった私は
荷物を持つとのろのろと立ち上がった。



『それじゃ、また今度・・・』



軽く手を上げてそういえば、

「がんばってねぇ〜」とのんきに手を振る小松田さん。



そのまま職員室を出ようとしたとき、土井先生に呼び止められる。




「あ、柏木先生。今日しんべヱに
放課後科学実験室に来るよう伝えてもらえませんか?」




『はぁ、化学実験室ですか?』



「なんでも、この前の科学の実験に
しんべヱは遅刻して授業にでてなかったそうで。
           要するに実験の補習でしょうね。」



苦笑いで答える土井先生になんだか私も苦笑いを返す。


『わかりました。伝えときます。』


理科の先生も大変だなぁ・・・
生徒一人のために放課後実験なんて。



補習をするほど重要な内容なのだろう。
なんだか申し訳なくなって


心の中で理科の担当教師に謝る。

いや、未だに会った事ないから顔はわかんないけども。

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