3

どうしたものかと考えあぐねていると
黒木の声がまた教室に響く。



「先生は、三治郎や、兵太夫、団蔵とか・・・付き合ったりしますか?」



何だその質問は・・・・



『だからさ、何度も言うけど私は教師なんだってば。
         生徒である君らと、そんな関係にはなれないの。』



もう何度口にしたかわからない
自分は教師だという、再確認のような言葉。


ため息混じりに気だるげにそういうと
せわしなく動いていた黒木の腕がピタリと止まった。


ゆっくりと、黒木は自身の体をこちらに向ける。

黒い瞳が真っ直ぐに私を写した。







「それじゃあ、先生は。先生でなければ僕達の誰かを
                   好きになりましたか?」








隣で、二郭の息を飲む声が聞こえた。



どうやら、私の答え方はまずかったのかもしれない。


黒木は教師としての私ではなく。
女としての私の意見を聞きたかったようだ。



『んな仮定の話されても、分かるわけ無いじゃんよ。』



「・・・それもそうですね。」



少しめんどうになって、そう投げやりに返せば
黒木は少しだけ首をかしげた。




『というか、なんで君らは私にああもちょっかいをかけるかねぇ・・・』



「・・・さぁ?どうしてでしょう?」



『・・・君達はさ。たぶん、私が珍しいだけなんだよ・・・』



男子校。それも全寮制というのが災いしたのだろう。

学園というこの閉鎖的な空間に少し珍しいものが入ってきて。
皆それに興味を持っているだけで、
それはおそらく“好奇心”という類のもので

“恋”というものには結びつかないもの。




『所謂さぁ、私は動物園のパンダなんだよ。』



ここまで言えば、黒木も納得してくれるだろう。

そう思ったのだが・・・




「・・・そんなこと無いですよ。少なくとも僕は。」



黒木の口から出てきたのはそんなくどき文句まがいな言葉。



「確かに始まりこそは先生の言うとおり“興味”だったと思います。
     だけど、今は違います。ちゃんと先生の人柄を見ている。」



「一人の人間として。僕は先生のことを好いています。」



ソレは、少し尊敬にも似た眼差し。

少し驚いて、それから自然を頬がゆるんだ。



『そんなことを生徒に言ってもらえたら嬉しいね。
          学級委員長に好かれているなら安心だ。』



小さく声を上げて笑って見せると、黒木も少し表情を和らげた。



「先生は誤解しないんですね?」



少しだけ笑いながらそう言った黒木にやっぱり頭を抱えたくなった。

“誤解”とは「好き」という言葉にたいしてのことだろう。



コイツ。さっきからずっと誤解を招くような言葉だって
分かってて使ってやがったな・・・

つまりはねらってたわけだ。



『君の態度や、目を見れば。本気じゃないことくらいわかるよ。』



呆れたようにそうつぶやけば
笑い声を上げる黒木とは対照的に

いままで口を閉じていた二郭が大きくため息をこぼした。



「庄左ヱ門・・・最初から柏木先生と話すのが目的だったでしょ・・・」



どうやら、黒木も大概問題児なようで

二郭の苦労が垣間見えた気がした。



「・・・柏木先生。先生はいつも
      少し自分を否定するようなことをおっしゃいますが。
               僕はそうは思いませんよ。」



それから、ポツリポツリと話を続ける二郭。


高校生とは思えないくらいに
とても落ち着いた、そしてとても優しい声色をしていた。


「先生は。先ほど、自分が珍しいからと言いました。
  だけど、僕も庄左ヱ門と同じです。皆は別にそんな想いじゃない。
   1人1人想いは違うけれど、皆先生の人柄に惹かれたんです。」



嫌に私のことを褒める二郭。


なんだが少し照れてしまって
目をあわせられなかった。



「例えば、先生は。
人に自分の価値観を押し付けるようなことは言わない。
無意識かもしれないけれどソレに救われる人だっています。」



不意に、頬に手を添えられ

少し強引に二郭と目をあわせられた。



「だから、言葉や態度で僕らを遠ざけないで。
  兵太夫の気持ちをただの気のせいで終わらせないでください。」



優しく、それでいて少し悲しげにそう微笑む二郭。

彼の行動の大胆さが少し意外で驚いたが。


すぐに頬から手をどけさせた。



『・・・近い。』



「う、あ・・・す、すいません。」



すると、急に頬を赤く染め、ワタワタと慌てだした二郭。


それが少しおかしくてまた頬をゆるませた。




『・・・二郭は3組の母親みたいだな。
       私まで説教されるとは思わなかったよ。』



「せ、説教って!!」



「掃除のことにも口うるさいですしね。」


「しょ、庄左ヱ門!!」



声を上げて笑えば頬をあからめたまま不満げに唇を尖らせる二郭。


子供らしいその表情になんだか笑いが止まらなかった。



『やっぱりそう言うところはかわいいな。』



くしゃりと頭を撫でてやれば

耳まで赤くした二郭はうつむいてしまった。



ニヤニヤとそれを眺めていれば



「・・・そういうところが一番いけないんですよ・・・」



と、呆れたように黒木がため息をついた。








仕方ないだろう。ついからかいたくなるんだ。



「、」



『あ?何か言った?』



それから、黒木が何かつぶやいたようだったが
うまく聞き取れなかった。


「なんでもないですよ。ただの独り言です。」



『あっそ。』




このクラスのヤツでは珍しいくらい素直に照れる二郭が
なんとも新鮮だった私は

黒木の言葉にさして興味は持たず、二郭の頭を撫で続けた。


「もう、勘弁してください・・・」




からかいがいのあるやつだ。




(誤解を招くようなことを言ってるのは、どうみたって貴方の方だ)

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