act.9 先生と学級委員長と時々おかん

「柏木先生。」




『あぁ?』




4限の英語の授業が終わった頃

荷物をまとめて職員室に戻ろうとした私を呼び止めたのは黒木だった。



『どうしたの委員長さん。』



まだ足の骨のヒビが直っていない私は
松葉杖を両手に、荷物を背負いながら何気なくそう訪ねた。



すると、黒木は形の良い眉をピクリと動かした。



「何ですかその呼び方・・・」



いや、特に意味なんてないけど・・・



『何、嫌だった?』



「はい。」




『あっそ、じゃあ学級委員長さん。どうしたの。』


「・・・・。」



『冗談だってば、黒木。』


別にからかってるつもりじゃなかったんだけどな。

このままでは黒木は無表情のまま一向に口を開こうとしないので
もう一度訂正する。


早く食堂に行かせろ。




「・・・今日の放課後。英語を少し教えてほしいんですけど。」



『ん、黒木が?』


「はい。今やってる問題集でわからないところがあって・・・。」



さすが黒木というべきか。

日々の勉強を怠っていないようだ。

私なんて高校時代に問題集なぞ買っても
結局その日に2、3ページやっただけというようなことが大半だった。


消しゴムを最後まできっちり使い切る前に何処かへ無くしてしまうのと同じで

問題集も最後まで解いたことなんて無かった。



『別にいいよ。今日は仕事少ないから暇だし。
                    英語勉強会でもするか。』



足を痛めているせいであまり出歩くことも出来ず
正直言って退屈していたのだ。



「あ、だったら僕もお願いします先生!」



体をのりだし、ハイと手を挙げたのは
傍で聞き耳を立てていたらしい二郭だった。



『ん、全然良いよ。放課後教室に居な。』


どうせ放課後の勉強会に残るやつなんて3−3にはほとんど居ないのだ。

二人くらいどうってことない。



「よかったー。僕、実は英語があまり得意じゃないんですよね。」



『え?マジで。小テストとかもそんな感じしないけど・・・』


それに会って間もない頃は加藤にスパルタ授業をしてただろうに



「得意じゃないから、大分英語は勉強してるんですよ。
          庄左ヱ門にはいつも教えてもらってて・・・」



そういって二郭は少し恥ずかしそうに後ろ頭をかいた。



『ふ〜ん・・・なんか偉いね。二郭は。』



感心して何気なく二郭の頭を撫でれば向こう側から叫び声が



「あー!!伊助ずりぃ!!慎ちゃん俺の頭撫でてくれたことないじゃん!!」



言わずもがな、加藤である。


『だってお前のことを賢いとか偉いって思ったことないし・・・』


つか、何?

撫でてほしいの?



「じゃあさ!次の小テストで5点取れたら撫でてくれる?!」



『目標低いな・・・15点満点だぞ・・・。』


まぁ、加藤はいつも破壊的に英語が出来ないため
いつも1、2点なのだが・・・


加藤にこそ、英語を勉強してもらいたいもんだ。




『せめて半分だな。次のテストで7点とったら褒めてやるよ。』



「ぐぇー厳しいー!!」



加藤のそんな叫びを耳に、ひらりと手を振り教室を出る。



何故か驚いたようにピクリとも動かない二郭の姿が横目に見えた。





昼は何食べよっかな。

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