3

『あー・・・えらい目にあった・・・。』






心底疲れた声色で、そんなことをもらすと、


隣を歩く猪名寺は少し困ったような表情を見せた。



「えと、柏木先生すいません。僕も伊作寺先生も、
怪我や病気のこととなると、つい興奮してしまって・・・」


いや、興奮ってか

逆に冷めてた気がしないでもないけど?



「普段は伊作先生、とっても優しい方なんですよ。」



まぁ、見た目はとても優しそうな人だったしね・・・



『ん。分かってるよ・・・。』



申し訳なさそうに話す猪名寺に
私も苦笑いをこぼす。



『それにしても、善法寺先生は若く見えるのにしっかりしてるね。』



フと、そんなことをもらすと
猪名寺は少し考えるような仕草をしてから口を開いた。



「確か、伊作先生は今年で25ですよ。」



なるほど、なるほど



『2こ上か・・・』



なんとも信じがたいことに、善法寺先生も
小松田さんの年下ならしい。


いかんせん、どう見たって小松田さんは年下にしか見えない私。

小松田さんのぽやぽやとしたしゃべり方を思い出して
なんだか不思議な話だな、なんてことを考えていた。



「伊作先生は、私たちが中等部にいたころの大学の先輩なんですよ。
     それも、不運が集まると言われる保険委員会に中・高と
抜擢され続け、委員長まで勤めたという【不運大魔王】なんです。」



『はぁ、ふ、不運?』



なんだか話がおかしな方向に行っているようだ。

意味がわからん。



「そうです。外を歩けば穴に落ち、ボールが飛んでくるのはあたりまえ
     ひとたびこけようものならピタゴラスイッ●のごとく
          次々と降りかかる災難の数々。
      これを不運と呼ばす、なんと呼べまじょうか!!」



何故か熱く語りだす猪名寺に、私はなんとも言えない表情を浮べる。



『そりゃ、確かにすごいけどさ、
猪名寺も今年の保険委員の委員長じゃなかったっけ?』




「はい。斯く言う私も【不運小僧】と伊達に呼ばれてませんからね。」



猪名寺の眼鏡がキラリと光った。


どうやら彼は善法寺先生の跡を、着実に引き継いでいるようだ。



そういえば、この前の英語の単語の小テストで、
猪名寺の答案が一つずれていて0点だったことを思い出し

なんだかそのことに納得してしまった。






『・・・ところで君は、いつまで私について来るつもりなわけ?』



保健室からでて、歩くこと数分。


生徒寮への最短の道はもう過ぎてしまったはずだ。

しかし、今だに私の隣を歩く猪名寺に疑問を投げかける。




「何言ってるんですか、先生の部屋まで送り届けますよ。」



何を当たり前のことを言っているんだと言わんばかりの声色で
爆弾発言。


め、めんどくさい。


監視されるなんて冗談じゃないってホント




笹山じゃないけど、分かってんのかコイツ・・・




『あのさ、一応私女性教員だからさ、
男子生徒を部屋に上げるのはちょっと・・・。』




「こんな時に何言ってるんですか!!もし、途中で何かあったら
   どうするんです?!私がいなかったら大変でしょう!!
    第一、先生もきり丸の部屋に行ったことあるでしょう!」



『い、痛いところつくね・・・
つか、何できり丸とのこと知ってんの・・・。』





くそっ!甘かったか、


猪名寺なら、ああいえばすぐに引き下がると思ったのに・・・
意外にもしぶとい。



仕方が無いか・・・


善法寺先生から、監視役をまかされた以上
猪名寺は引き下がらないだろう。



松葉杖をついて、ゆっくり歩きながら私は腹をくくった。






いや、そんな大げさなことじゃないけどさ、








『送り狼とかになんなよな。』








「柏木先生!!」









からかうのも程々にしておこう・・・

[ prev / next ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -