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「あれ、乱太郎かい?」



猫のような目をした若い男。



白衣を着て、いかにも校医のような雰囲気をかもし出している。



しかし、



あれ?校医って新野先生じゃなかったっけ?

だれだこの人・・・


猪名寺の影から除き見て、そんな考えにふけっていると


猪名寺も少し驚いたように肩を揺らした。



「あれ?善法寺伊作先生。今日は当番でしたっけ?」



猪名寺の口ぶりからして、とりあえずこの学園の先生ならしい。



「いやぁ、今日は新野先生なはずだったんだけど、
        どうやら急用ができたらしくてね・・・
          今日は変わりに僕がここにいるんだよ・・・」


少し困ったように校医さんは後ろ頭をかいた。


「・・・って、あれ?そちらの方は・・・」



ようやく猪名寺の背中の私の存在に気づいたらしいその校医は

不思議そうに首をかしげてみせた。



「・・・僕たち3−3の担任の柏木先生です。」


ここまで私が運ばれることになった経緯にまだ腹をたてているらしく

いつもより少し低めの声色でつぶやいた猪名寺に私は苦笑いをこぼす。



『どうも、』


若いとはいえ、新任の私よりはおそらく年上。


とりあえず会釈しておく。




「あぁ、新しい先生ですか。どうも、校医の善法寺です。」



見るからに優しそうでおだやかなその人に少し息がつまった。




いや、あまりにも私の周りにいなかったような性格の方なので・・・



「ところで、その足・・・・」




しかし、そんな和やかな雰囲気も束の間。


善法寺先生の目がスッと鋭くなった。

心なしか、部屋の温度が少し下がった気がする・・・



「はい、たぶんヒビでも入ってると思います。」



まじでか、そんなに酷いのか私の足は・・・



という思いもあったのだが、

善法寺先生に猪名寺、二人のかもし出す雰囲気に


なぜか背筋が伸びてしまった。


「乱太郎、とりあえず柏木先生をそこの椅子に。」


「はい。」



私は猪名寺によって、
なんとも恐ろしい雰囲気の善法寺先生の前の丸い椅子に座らされた。



「ちょっと、失礼しますよ。」


『は、はぁ・・・』



ズボンの裾をまくられると、
なんとも痛々しげな色をした足首が目に入った。



「酷いですね・・・」


横で見ている猪名寺が顔をしかめ、思わずポツリともらした。


「あぁ、でもとりあえず折れてはいないようだね。」


『いだだだだだだっ!!』


怪我の具合を見るためだろうが、
青紫に晴れ上がった足首をぐりぐりと押され、

言葉にならない痛みが襲ってきた。


「まったく、いったい何をしたらこんなことになるんですか・・・。」


叫ぶ私を尻目に、善法寺先生はあきれた顔で
なおも私の足をグリグリと押さえつけた。


もう、涙目だ。

何この人、見た目に反して鬼畜過ぎる・・・



『っ、・・・!!!』



「実は斯く斯く然然で。」



あまりの痛さに絶句の私のかわりに、
猪名寺が状況を説明する。



「・・・なるほど、よく分かったよ。ったく、虎若は・・・。」



前髪を少し掻き分けてあきれたような仕草をしてみせる善法寺先生。



顔のつくりがよろしいので、さまになってるし

かっこいいけども・・・



『せ、先生!と、にかくっ・・・は、離して・・離してください!!」



「あぁ、ごめんね。それじゃ、しっかり固定して包帯巻いとくから
        くれぐれも激しい運動なんかしないでくださいね。」



そういうと、善法寺先生は手際よく治療をすませ、
綺麗に包帯を巻いてくれた。


若いのになかなかうまいもんだ。

まだジンジンと痛む足首をみながらそんなことを考えた。



「それじゃあ、そこにある松葉杖を使って下さい。
それから、仕事が終わってからでいいんで毎日ここにきてくださいね。
         包帯を巻きなおしたり、怪我の具合をみるんで。」



『はぁ。』



「・・・乱太郎。しっかり柏木先生を見張っとくように。」


「はい!」


気の抜けた返事を適当にしたのが伝わったのか、
善法寺先生は私を信用してないようで、


なんと監視役を猪名寺に任せた。


め、めんどくさい!!



『だ、大丈夫ですよ。私だって大人だし、そういうことはちゃんと、』



「何言ってるんですか、
別に僕は柏木先生のことちゃんと信用してますよ。」



こちらに背をむけながら、あまり感情のこもってない声で
善法寺先生は言う。



いや、絶対信用されてない・・・・




まぁ、確かに行きたくないなとは思ったんだけどさ、



悲しいやら情けないやらで、

何だか前が滲んで見えなかった。

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