▼ act.8 先生と不運
私の体を背負うその体は、先ほどと変わって
少し頼りないくらいの細さだった。
でも、やっぱり男の子なもんで。
広い背中だった。
見た目はひょろいけど、意外と力はあるんだな・・・
「柏木先生聞いてますか!?まったく、大体柏木先生は
最近怪我をしすぎですよ!!女性なんですから!
体に痣でも残ったらどうするんですか!!」
『まぁ、とりあえず原因である佐武に嫁にもらって貰うかな。』
「またそんなこといって!!
もうちょっと真剣に考えてくださいよね!!」
それから、彼の口うるさい説教を適当に聞き流す。
佐武に代わり、今私を保健室まで運んでいるのは
我が生徒である3−3の生徒、猪名寺である。
私を背負ってなんとか学園まで帰ってきた佐武と加藤。
そんな中、校門の前を偶然にも通りかかったのが猪名寺だった。
私たち3人をみた猪名寺はものすごい剣幕でやってきて
佐武と加藤に事情を聞き、すでに疲れきっている佐武に代わり
私を背負って保健室まで歩いているのだ。
なんでも猪名寺がこんなにも怪我にうるさいのは
彼が保険委員だからならしい。
いや、普段おとなしいやつが怒ると怖いっていうのは
ホント、あながち間違っちゃいない・・・
『でもさ、私だからこんな足の怪我ですんだんだよ。
子供ならもっと酷かったかもしれない。
もしかしたら頭を強くうっていたかもしれない。』
思ったことをふと、口に出してみると
それでも、と猪名寺は渋った。
「それはそうかも知れないですけど・・・柏木先生はもう少し
自分の身を案じてくださいよ。」
『しゃあないんだよ。子供を守んのが大人の役目なのー』
そこまで言うと猪名寺はまだ渋い顔をしてはいるものの
大きくため息をついたきり、何も言わなかった。
そうこうしている内に、保健室についたようで
猪名寺の足が扉の前で止まった。
コン コン
リズム良くたたかれた扉が小気味のいい音をたてる。
「はい。」
中から聞こえた返事に「失礼します。」と一言。
そして開けた扉の中へ足を入れた。
中に見えたのは少し明るめのライトブラウンだった。
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