act.7 先生と馬と鹿

「あぁ!!くまさん!ママ、くまさんがいるー!!」



『・・・・』




「わぁーい!!風船くれるって!!」




「あら、よかったわねぇ、ついでに写真も撮ってもらったら?」



「わぁ〜!!くまさん!しゃしん、しゃしんとろ!!」




『・・・・』






「ハイ、チーズ」













「やったー!!くまさんありがとー!!」





『・・・・・。』














久しぶりの休日。





私は遊園地に来ていた。










一人で、








いや、何も友達がいない寂しいやつ。




とか、そう言う話ではない。



むしろ友人がいたからこそ、こんな目にあっているのである。




「あ、おかぁさん!くまちゃん!!」




『・・・・・』





いままでのことからお分かりいただけるだろうか・・・・




さっきから、無言で手をふったり



かわいらしい仕草で動いてみせる私は今・・・






クマである。







つまるところ、遊園地で着ぐるみのバイトをしているのだ。





話は今から数時間ほどさかのぼる。

















私の意識は軽快な音楽によって現実へと戻された。






ピッ








『・・・・・もしもし・・・・』




[もしもーし!!慎?あのさぁ、今日暇?ひまだよねぇ?]




有無を言わせない物言いに朝からテンションのやたら高い早口。



機械越しに聞こえる高い声が私の鼓膜を大きくふるわせた。





うるさい。




『・・・・まぁ、たまの休日だからね・・・予定は・・・ない、よ。』



おきたばかりの回らない呂律で、あくびをかみ殺しながら

目にかかる髪の毛を手ではらった。




[まじで!?じゃあちょうどよかった!!てか慎今起きたの?]




何がちょうどよかったのか。



私にとってはすこぶるバットタイミングである。


心地よい睡眠を妨げられ、さらにはこれから何を言われるのやら・・・


どうせろくなことはないのだ。



小さくため息をついてから頭をガシガシとかく。




『んで・・・?用事は?』




[あ、そうそう。あたしさぁ、バイトしてんだけど。今日ちょっと
急用ができちゃってさぁー代わりに行ってくんない?]



『はぁ・・・?嫌だし・・・・』




今日はせっかくの休日なのだ。



バイトなど入れてたまるものか




[バイト先の人には言っといたからさ、昼頃なんだけど大丈夫だよね]




・・・・大丈夫じゃないです。



主にあなたの耳が



『聞いてた?嫌だってば・・・・』



[いやー慎がいて本当によかったよー大事な用事だからさぁ]





『・・・・・』



彼女が人の話を聞かないのはあいかわらずで、分かりきったことだ



しかし、私の眉間に刻まれたシワはよりいっそう深くなる。



『あのさぁ、私の職業知ってる?高校教師なんだよね・・・』



[は?うん、しってっけど?]




『だからぁ・・・バイトとかしちゃいかんわけ・・・』



[えぇーマジで!?そんなんあんの?!]



『あんの・・・・』




ここまで言えば他を当たってくれるだろう、


そう、思い



安堵のため息をつこうとしたそのとき、








[まぁ、ばれなきゃいいんじゃん?]







私の息はあきらめのまじったものに変わった。




[バイト代もあんたのもんだし、こんど酒でもおごるからさぁ〜
お願いだって、もうアンタしか頼めんのいないんだよね。]




私は腹をくくるしかないのだろう・・・・



布団の中に包まっていた私は起き上がり

ベッドに腰掛けるように座った。



『たく、まずい酒だったら許さんからな・・・・』



[ひゃっほーさすが慎!!話がわかるねぇ!]





『んで、結局なんのバイト?』






[あー遊園地だよ、遊園地。]






『ふーん・・・珍しいとこでバイトしてんね』



[じゃ、場所とか時間の詳しいことはあとでメールで送るから!]





『ん、分かった・・・・』




[じゃね〜よろしく!]





プツッ








電話が切れてから静かになった部屋で


また意味もなく頭をかいた。




不意にまた音楽が流れる。




メールだ。



友人のいったとおり、地図と詳しい時間が添付されていた。





それをぼーっと眺めながら身支度をはじめる。


ここからすぐ近くの遊園地だ。




ま、なんとかなるだろ・・・・















そんな軽い気持ちで行った遊園地で、



冒頭にもどるのである。

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