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「知ってる?せんせー・・・・
         
           兵ちゃんってね、すっごく優しいんだ。」





まだ少し、寝起きでかすれた小さな声で夢前はつぶやく。



「僕が悩んだ時だって、いつも一緒に悩んでくれる。」



『うん。』


「僕が困った時はいつだって助けてくれる。」



『うん』



「団蔵とだっていつも言い合いとかしてるけど、
          なんだかんだいって仲良いし・・・」



『うん。』






「・・・僕ね、兵ちゃんにはいつも幸せでいてほしいって思うんだ。」





『んー・・・いつもは無理じゃない?』


苦笑い気味にそうこぼすと、夢前も少し苦笑いを浮かべた。



「いや、まぁそうなんだけどさ、」


ふいに、夢前は私の顔をじっと見つめる。




「だからさ、僕は兵ちゃんとせんせーの仲を応援してるんだ。」




『え゛え゛っ、あ、うん・・・。』



「ソレが兵ちゃんの幸せにつながると思うからね。」



こちらとしては迷惑極まりないのだけれどもね・・・


それに、



『ほんとに笹山は私のこと好きなのかね・・・?』


ここ2、3日思っていたことを口にしてしまった。




「ははっ、兵ちゃんってばいつもせんせーにツンツンしてるもんね
              今流行のツンデレってやつだよ。」



流行ってるか・・・?



ていうか、

『ツンデレ・・・ねぇ・・・?』



もしそれだったら比率はおそらく8:2くらいが妥当だな。


明らかにツンの割合が多い。


なにせ、あの告白以来デレなんて見たことがないのだ。




『・・・夢前は、本当に笹山のことが好きなんだなぁ・・・』



「ふふっ、まぁね。長い付き合いだし。」


得意げに笑ってみせる夢前、



でも、



だけど、







それじゃあ ―







『夢前は?』
















「・・・・え?」





『確かに、夢前の言うとおり、笹山は優しいかもね。でも、
夢前も優しいよ。・・・いや、優しすぎるかな?

             もう少し、自分のこと考えな?』





「どういうこと?」




小さくなでるようにポンッと夢前の頭に軽く手を乗せてみる。


夢前は困惑したような目でこっちをただ見つめ返した。




『夢前はさ、笹山のこと考えすぎだって・・・
    少しは自分のために心使ったほうがいいんじゃないの?』




「・・・・意味わかんない・・・。」





『じゃあ、例えば・・・・・いつも笑顔でいるのって疲れない?
     君は笑顔でいれば良いって、そんなこと思ってない?』



誰かのために、無意識に感情を押し殺してるのかもしれない。

私の言葉に、夢前は口を閉ざした。



どうやら図星のようだ。









『嘘吐き。』







「え・・・?」






『夢前はいつも笑顔で嘘ついてたんだろ?』



「ち、ちが」





『違わないんじゃない?』




「ぁ・・・・っ」



そらまぁ、確かに、人間関係をうまくするにはお世辞や愛想笑い。

嘘なんて沢山必要。

嘘も方便なんて言葉もある。





だけど、




『ついて良い嘘なんてあるのかねぇ・・・?』


そんな疑問を投げかけて、夢前の頭をワシャワシャとなでてやった。




「・・・・フハッ・・・・」




夢前は少し恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに
私に頭を好きになでさせていた。


「・・・・慎せんせーに色々話したら、
      結構すっきりしたかも・・・・
          せんせー意外と聞き上手だね・・・。」

『だろ?よし、んじゃあ私はまた掃除してくるから、
お前はちゃんと教室戻れよな〜』




そういって、立ち上がろうと足に力を入れてから少し思いとどまる。




『あ、そうだ。お前タバコ吸ってないだろうな?』



少しスンスンと、周りのにおいを嗅いでみる。



「なんで?」



夢前はきょとんとしたように聞いてくる。




『いや、さっき校内で吸殻見つけたからさ、ちょっと確認。
             なんか違うみたいだからいいよ。』


そういって、再び立ち上がろうと足に力を入れた時、



「あぁ、僕?タバコ吸ってるよ?」




なんて言い出した。



結局さっきから立ち上がれずにいる私は夢前に視線を向け、
                 眉間にシワを寄せた。




『いや、嘘だろ・・・・』




「嘘じゃないよ。」



『本当だったら言わないだろ普通、ばれたら停学もんだしね。』




「そうやってどうせ信じないだろうと思って
              本当のこと言ってるかもよ?」



ニコリ



夢前はいつものように笑みを浮かべた。


あ゛ぁー




こんなことは考えても分からないので考えるだけ無駄だ。




『なんかどうでもよくなってきた・・・・』




ただただ、今の思考回路全てがなんかめんどくさいのだ。






「じゃあさ、確かめてみる?」









『は?何を?』




「僕が本当にタバコ吸ってるかどうか」






『はぁ?』




変な話だ。


なんで吸ってないって言う教師にわざわざ吸ってるって言って、

んで、しまいには確かめるって・・・・




ていうか、




『どうやって?』








「こうやって・・・」





ふいに、しゃがんでいた私の腕をとられ、ぐいっと引き寄せられた。


しゃがんでいてあまりよくもないバランスだったため、

いとも簡単に体制を崩し、夢前のほうに体が傾く。






『んっ・・・・』



ふと、唇には暖かい感覚と、ふわりと香った夢前の匂い。


















きす








してる



















「甘・・・・。」



そっと唇を離した夢前は小さくつぶやいた。




『・・・・さっきまで飴食ってたから・・・・』







「あぁ、どうりでリンゴの味がするわけだ。」





いや、ていうか・・・・

















『嘘吐き・・・・。』


















タバコ吸ってねぇじゃん・・・・

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