2

キィー・・・・




そんな音を立てながら扉をあけて辺りを見回す。




すると、





『あ、いた・・・・』




やはり予感は的中。

ズバリサボりの生徒だろう。

制服を少し着崩した青年がフェンスに背中を預けて腰掛けていた。



その生徒はピクリとも動かない。



どうやら寝ているのだろう。
まだ少し寒いというのに、よくこんなとこで眠れたもんだ、

関心もあきれも混じって苦笑いを浮かべる。



完全に屋上へと足を踏み入れる。


少し、その生徒に見覚えがあったのだ。




足音を小さく近寄ってみるとまぁ、やはり
3−3の生徒である。






『夢前・・・・。』













そう、彼であった。



なんともまぁ気持ちよさそうに眠っている。


閉じられたまぶたに、男にしては少し長いまつげ、
そんな綺麗で落ち着いたこの雰囲気からは
いつものニコニコ顔は想像出来なかった。





(ったく、我が3組はほんとうに困ったもんだ・・・)





サボって寝てるようなので
とりあえず起こすべく、夢前の横まで来てしゃがみこむ。



『おーい夢前、起きろ〜』



まずは呼びかけてみる。









『・・・・・』




「・・・・・」







まるで返事はない。




熟睡かコラ・・・




しかたなく、床に金バサミを置くと
こんどは夢前の肩を叩きながら声をかけてみた。




『お〜い、起きろって』




「・・・・ん・・・・あ?」





さすがにこれには気づいたようだ、


うっすらと目を明けた夢前は少しかすれた声をもらした。




『お前、今4限目の最中じゃん・・・サボってんじゃねーよ』




軽く頭を小突いてみるが
おそらくはまだ意識がしっかりとしていないようだ。



ひとつあくびをしてから
確かめるように私の顔をボーとした目で見つめる。




「あ、慎せんせー・・・」



いつも通りにのんきにニコリと笑みを浮かべた夢前に
再びため息をつきたくなった。



『せんせー、・・・・じゃなくて・・・授業サボっちゃいかんよ。』



「んーだってさー僕数学って嫌いなんだよねー安藤先生だし。」


なんの悪びれもなくヘラリといってのける夢前。


あぁー・・・こりゃ土井先生も胃がいたくなるわなぁ・・・





『んで、戻る気とかないわけ?』



「んー見逃してよ慎せんせー?」


かわいく首を傾げて見せるが私は苦笑いを一つこぼす



『めんどくさいし、そうしたいのも山々なんだけどね・・・
              私教師だし、てか君の担任だし。』



それでも夢前は少しも動こうとはしない、それどころか




「ていうか、なんでせんせーこんなとこにいんの?授業は?」



なんて質問を返してくる。

その言葉はそっくりそのまま君に返したいけどね・・・



『私は今日は2限の一年生の授業だけで終わりだから、
          事務員の小松田さんに掃除頼まれたわけ。』



「ふ〜ん・・・それでここ通りかかったんだ・・・」



『そういうこと。』



予想になかったな〜なんて頭をかいている夢前だが

どうやら戻る気なんて更々ないらしい。



あきらめた私も夢前の隣に座り込んだ。




いや、ほっとくのもなんかアレだから・・・・







「・・・・。」


『・・・・。』




しばらくの沈黙。


しかし、すぐに夢前が口を開いた。





「あのさぁ、せんせー僕の話聞いてくれる?」




『んー別に聞くだけならいいけど?』



お悩み相談的なものだろうか?


そんなことを考え、若干の好奇心をもつ。



なんかこういうの先生っぽいじゃないか。









「最近ねー兵ちゃんが楽しそうなんだ。」





『は?・・・・あぁ、うん・・・笹山が?』





いきなり笹山の話かい・・・


少しまぬけな声を上げて夢前の方をみた。




「たぶんやっと慎せんせーのことが
          好きなことに気づいたんだろうね。」




相変わらず笑顔を崩さず言った夢前のその言葉に少しドキリとする。




『なに?知ってたの?』




「あ、やっぱりそうなんだ・・・
          まぁ、兵ちゃんとは長い付き合いだしね。」



「兵ちゃんって変なとこ鈍感だからさー」と、
           クスリと声をもらして夢前は笑った。



「小さい子みたいだよねー僕見てておもしろかったもん。」




『まぁ、確かに・・・・ね』



少し気まずさを感じてあいまいに返事をかえす。


なんで夢前とこんな話してんだ・・・




「・・・この前も言ったけどさ
         、兵ちゃん最近彼女と別れたんだよね。」


あぁ、そういえばそんなこと言ってたな・・・



「その彼女っていうのがさ、
兵ちゃんが今まで付き合ってた中で一番良かったっていうか、
         長い間続いててね、結構いい感じだったんだよ。」



『うん。』


「実際兵ちゃんも結構惚れ込んでたしね。」

うわ、想像つかん。


「でもさ、ある日ね・・・
      兵ちゃんの彼女と同じ学校のヤツが来てね・・・」



そこまで言って夢前は少しうつむいた。


また一瞬、沈黙が訪れる。




『・・・それで?』



「・・・それで、ソイツが兵ちゃんに言ったんだ。
         「俺は彼女が好きだから別れてくれ」って」



夢前の笑顔が少しずつ、消えていくのが分かった。




「でも、そんなこと言われたってさ、ハイそうですか、って
              そんな話聞くわけないでしょ?」



『そら・・・そうだわな・・・。』



「だから、兵ちゃんもきつめに怒って断ったんだよ。
       そしたら、相手はちょっとビビッたみたいでさ、
     すぐに悔しそうな顔しながらも帰っていったわけ。」



『よかったじゃん。』




「それが、そうでもなくてね。
     数日たってから、いきなり彼女のほうから兵ちゃんに
             別れてくれって言い出したんだよ。」


なかなか、込み入った話のようだ、

夢前の表情にいつもの笑顔はなかった。


ただ、少し悲しそうに小さく笑みを浮かべていた。


私はただ、なんだか漫画みたいな話だと思った。




夢前は話を続ける。



「最初は意味も分からなかったから、理由を聞こうとしたんだけど
              なんだか彼女、泣き出しちゃってさ
        怒ってその場から走ってっちゃったんだよね。」


そういい終えると夢前から表情が消えた。

悲しそうな表情でもなく、いつもの笑みも消えたのだ。



「少し経ってから知ったんだけどさ、彼女の学校で、
              兵ちゃんが女遊びの激しいヤツで
女と付き合うのに賭けて遊んでるって噂が流れてたんだって。」


夢前は左手をぎゅっと握り締める。


怒っているのだろうか・・・?


「そんな根も葉もない噂流した犯人なんて分かりきってる・・・
だけどそれ以上に僕は許せないんだよね・・・彼女のことが。」



『どうして?』


「なんで彼女は兵太夫よりそんな噂を信じたんだろうね?
どんな噂で、彼女がどんなものを見て、どんな気持ちだったかなんて
知らないよ、けどさ、話せば絶対に分かったことだ。」







「あの女は、兵太夫のいったい何を見ていたんだろうね?」
夢前はとても冷たい声色でそうつぶやいた。


「兵太夫にあの女が最後になんて言ったと思う?」



『さぁ?・・・・』













「【嘘吐き】だってさ。」












「ほんとに、バカみたい」











―そうだね







そう、小さく頷いた。

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