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前にも言ったことはあるけど、念のためもう一度言っておく







私はヤクザが相手でなくても流血沙汰の事件をおこしたこともなければ
建物を放火したこともないし、
ましてや盗んだバイクで走り出しちゃったことすらない。

見てくれはどうであれ、中身をのぞくと
神経は図太いものの、本当につまらない唯の一般ピーポーである。





ヤクザが相手でなくても流血沙汰の事件を起こしたことなんてない、

しかし、殴り合いの喧嘩なら経験はあるのだ。



屁理屈のようだが決して流血沙汰の事件を起こしたわけじゃない。




断じて私は元ヤンではない





断じて




「・・・っていうか・・・さっき言ってたの・・・」



『はぁ?何?』




「喧嘩がどうのって・・・・」



『あぁ、喧嘩ってのはびびらしたもん勝ちってやつ?』


皆本は小さく頷いてみせる。



『あれはね、高校時代の私の教訓みたいなもんだよ・・・』





「・・・やっぱ元ヤン・・・」



『じゃないから・・・。』


しばらくにらみ合う私と皆本だが、


私が先にため息をつきながらそらした。



『ほら、明日も学校あんでしょ・・・早く帰るよ。』


そういって寮の方向へと足を進める。

皆本は黙って私の横を歩いた。


しばらくの沈黙、しかしまぁ
皆本は何か言いたげに私をちらちらと横目で見る。


仕方なしに私はため息とともに口を開いた。



『・・・私ってね、今も見て分かる通りすっげぇ目つきとか悪りぃの、
んで、髪も脱色してたし、ピアスも結構開けてたもんだから
高校時代なんて相当の悪だと周りから思われててさ・・・。
地元のレディースの総番だとか、ありもしない噂があったわけよ。』


「れ、レディースの総番・・・」


『そ、他にも身に覚えのない噂だけが一人歩き。
そんな私に普通の友達ができるわけもなく。
           気づけは回りは生傷の耐えない不良ばっか』



思い出していくたびになかなか、ナイーブになっていく私、

しかしまぁ、皆本は少し興味ありげにしっかりと私の話を聞いていた。

授業中だってそんなに熱心に聞かないくせにな・・・


『んで、そんな不良どもとつるんでたらそりゃまぁ喧嘩はつきものよ、
それにまぁ、私の場合噂がいっぱいあったからね。
他校の不良どもがほっとくわけもなく・・・。』


私は何度も喧嘩に巻き込まれるのである。



しつこいようだけど、ここまで喧嘩してるけど
私は不良ではない。

この見てくれのせいで周りには不良しか寄って来ないし、
だから友達になんのも自然と不良しかいないし。


でもまぁ、そうするともっと普通の子たちが私に近寄らなくなるという
負の無限ループにはまっていたのだ。


ようするに喧嘩だってタダ単に回りに巻き込まれて仕方なしにやってた
一般ピープルである。


誰だって痛いのはいやだ。




やらなきゃやられる。





大げさだけど、高校時代の私の世界はそんなもんだったのだ。


まぁ、でもそれで私がとても不幸な子だったってわけでもない。

自分の目つきの悪さも知ってて、周りからどう思われてるかも知ってて
髪の色脱色したり、ピアスを沢山つけたりしてたのは私だからね。



『まぁ、私は喧嘩が特別強いわけでもないからね。
自分の見てくれを利用して相手をびびらせんの。さっきみたいにね。』



そこまでいって皆本はあぁ、と納得したように小さく頷いた。



『喧嘩とか、なんか勝負事って言うのはさ、大概びびらした者勝ち
びびった者負けってね。』



少しでも相手の動きを鈍らせたらこっちのもんだ。


それから、リーダー核のヤツを一番にたたきつぶす。
集団ってやつは大概リーダーに何かしら頼ってる節がある。

行動的にも気持ち的にも。



『相手の頭、つまりリーダーをやっちまえばこっちのもんだね。』



周りの奴らは瞬時にかなわないと思ってしまうし、
精神的に不安定になる。



『そうやって頭使って、不良の中を一般ピープル柏木は
             生き残ってきたわけですよ・・・。』





「・・・その一般ピープルって言うの・・・なんかウザイ。」


『・・・んだとコラ!君があからさまに私を疑ってるから
                   強調してんでしょうが!!』



「あんま睨むなよ・・・。」


そう口を開くも、皆本の表情は柔らかい。

何がそんなに面白いんだか・・・



少しは打ち解けたということでいいのか・・・

しょうもないことで少し頭を悩ましていると、
皆本は少し真剣な表情に戻った。



「・・・なんで喧嘩したとか、喧嘩すんなとか言わないのか?。」




『何?んなこと気にしてんの?』


皆本に視線を向けるが、気まずそうにタダ口ごもっているだけだった。



『さっきも言ってた通り、
私は別に熱血教師気取ってるわけじゃないからね
喧嘩の内容とか、誰が悪いとか、そういうのめんどくさいんだよね。』


皆本は私の言葉に少し驚いた表情をみせる。

それは敬意からなのか、それともそれで先公をやっていけるのか
という心配からなのか・・・


まぁ、おそらく後者だとおもうけど・・・



『めんどくさいし、どうでもいいって思っちゃうんだよ。』


そりゃあまぁ、警察沙汰になったら別だけどね。


『悪いことって言うのはバレないようにするもんだよ。
怒られて「これからはしません」っていうのはダメ。怒られたら
「これからはバレないようにします」っていうことのが大事。』


教師らしからぬその言葉に皆本は少しふき出したしたように
                      小さく笑った。



『まじめに生きるよりも、ずる賢く生きることのほうが
                    よっぽど大切なんだよ。』



「ハハッ、確かにそうだな!」


皆本が声を上げて笑うのを横目に、私も少し笑みを浮かべる。



「あんた教師っぽくないなって思ったけど、そういう答え方するあたり
                  やっぱり教師っぽいかもな。」



やっと、生徒寮と教員寮の前に着いたところで
             少し立ち止まった皆本はそういった。


『そう思ってもらえたならよかったよ、これでも私教師なんでね・・・。』



そんじゃ、帰って早く寝ろよ



そういって立ち去ろうと皆本に背を向けた時、



「待てよ。」



そういって腕を掴まれたかと思うと、皆本の方へと向き直させられた。


私よりいくらか背の高い皆本を見上げる。




『何?』



「コレ・・・。」



そして、左ほほに少し暖かい皆本の手と、ピリリ痛む感覚。

私の左ほほに手を添えた皆本の表情は真剣だった。



「悪かったな・・・・怪我、させた。」



『別にアンタが殴ったわけじゃない。』



「それでも・・・俺がいたのに、あんたが怪我した。」


まぁ、正確にはアンタがいたから怪我したんだけどね。

そんなこと言ったらさすがに可哀相なので黙っておく。


『それは皆本が気にすることじゃない。
    子供のアンタがそんなこと心配しなくったって良いんだよ。』


「でも・・・」



『でももくそもないんだよ、子供は黙って大人に甘えてろ。』



そういって皆本の肩を軽く小突くと、
皆本は仕方ないとでも言いたげに小さく笑った。






「じゃあ、次は絶対に怪我させないから・・・慎・・・。」




『呼び捨てにしてんじゃねー。生意気。先生をつけろ先生を。』


左ほほに添えられていた皆本の手を軽く払うと

こんどこそ生徒寮の隣にある教員寮へと向かうべく、皆本に背を向けた。





「あんたに先生って似合わねぇよ。」




小さく笑いながらそういった皆本の声を背に、
私は少し不満げに表情をゆがめる









私は教師っぽいんじゃなかったのかコノヤロー・・・

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