▼ act.1.5 生徒とつぶやき
「んだよあの先公、やる気ねー」
そう、妙にでかい呟きをこぼしたのは虎若。
まぁ、僕もそう思ったけどね。
「ま、どうでもいいじゃん?兵ちゃん早く帰ろーよ〜」
僕今日はクレープ食べたい気分なんだよね〜
一番最初に席を立った三治郎は僕の腕をひっぱる。
「わかったって・・・」
「まじで?今日はクレープ?俺も食べたいんだけど!」
「団蔵がクレープとかにあわねー」
そういう虎若にもあんまにあってないけど・・・
「タコスだよなどっちかっていうと。」
「プッ、タコスだって団蔵。」
金吾のつぶやきにふきながら、三治郎は団蔵をいじりはじめる。
「タコスのなにが悪ィんだばかやろー!!」
そういって反発するから余計に三治郎は団蔵をいじるんだけど・・・
ま、いっか。
「じゃあ、今日はみんなでクレープ食べにいこっか〜」
「うん。」
気のぬけた喜三太にうなずいて、脳筋トリオ+三治郎をおいてぞろぞろと教室を出て行く。
「あっ、ちょっと待ってよ兵ちゃん!!」
慌てて三治郎が走ってくる。
もちろん脳筋トリオも。
「ふふふっ。」
僕の隣にきた三治郎はいつものように笑みを浮かべる。
いや、いつもよりもっと笑顔かも・・・
「何?なんか嬉しいことでもあったの?」
「違うよーいや、そうかな?」
なんだかはっきりしない三治郎だけど気にしないようにする。
「変なの。」
苦笑いをうかべて下駄箱から自分の靴を取り出した。
「・・・兵ちゃんはこんなに優しいのにね・・・・。」
「何の話?」
「なんでも〜。」
ちょっと腑に落ちないけど・・・やっぱり気にしないようにする。
三治郎がよく分からないことをいうのは日常茶飯事だったりするから。
どうせこれいじょう聞いたって答えてくれないし。
「でもさぁ、なんで今更なんかね〜?」
なんの脈絡もなくつぶやいた虎若にみんなで首をかしげる。
「なんの話?」
「担任だよ、担任。なんだっけ・・・柏木?」
あぁ、柏木慎・・・ね。
「あぁ、あの先生ね。」
「すごかったよねぇ〜」
みんなでぞろぞろと校門を出る中、乱太郎としんべヱが顔を見合わせて口をひらく。
「は?何がすごいの?」
なにか、していただろうか?
思い返すけど別にどうってことない唯の新米教師だったはずだ。
「だってさ、最後の兵太夫とのにらみ合い。兵太夫若干ビビッてたよなぁ〜」
「はぁ!?」
僕がびびってた?!!
きり丸のにやけた顔にまわりのみんなは
「あ〜あれか」
「あーあれね」
とかつぶやきながら頷く。
「僕がびびるわけないじゃん!あんな唯の新米教師に!!」
ちょっと助けを求めるように僕の後ろを歩いていた庄左ヱ門に視線をむけてみる。
「びびるっていうか・・・睨み負けしてたよね・・・。」
「なっ、庄左ヱ門まで!!?」
確かに、あの柏木とかいう教師の睨みはアレだったけどさ・・・
「すっごいよな〜あの睨み方、つーか眉間のしわ?」
金吾は自分の眉間にしわを作ってまねをしてみせる。
「何気に釣り目だからよけいじゃね?」
団蔵は何故か少し笑いをこらえるようにつぶやいた。
「別に僕は負けてないってば・・・」
少しふてくされるようにそうつぶやけば
隣を歩く三治郎が口をひらいた。
「先生元ヤンじゃないっていってたけど本当かなぁ〜」
「そんなの嘘に決まってんじゃん!!ありゃ相当荒れてたね。」
何故か団蔵が断言してみせる。
「まぁ、本当に元ヤンだったとしてもそんなの普通は公表しないよね、ましてや教師なんてやってるんだし・・・。」
伊助のことばに団蔵は深くうなずいた。
「だよなぁ〜つーかアレで元ヤンじゃなかったら普通にひくし。」
「何で?」
「だって、あれが堅気の目かよ?昔は地元のレディースの総番とかやってたりしてなー!!」
「団蔵・・・それ、結構しゃれになんないかも・・・。」
苦笑いを浮かべる乱太郎を横目に僕は少しため息をつく。
「何そのごくせ●みたいな展開・・・。」
「でもさぁ〜・・・」
いままで、いちども話していなかった喜三太が口を開いた。
「結構美人顔だったなぁ〜慎ちゃん。」
「「「「「はぁ!?」」」」
「いやいやいや!」
「ないない。」
「喜三太お前性別♀だったら見境なしかよ!!」
全力の否定。
上から虎若、金吾、団蔵。
今回ばかりは僕もこの脳筋トリオに賛成だ。
「喜三太ってホントいい趣味してるよね。」
別にほめたわけじゃない。
単なる皮肉。
ソレをわかっていても喜三太は何も言わずに笑っていた。
「俺も、結構美人だと思ったけどな〜。先公だけどあんまうるさく言わなさそうだったし。」
きり丸までもがそんなことをつぶやく。
「おいおい、きり丸お前バイトのしすぎじゃね?頭疲れてるんだって・・・。」
ふざけてるのか本気なのか、団蔵は心配そうな表情をうかべきり丸の頭をなでる。
「ぼくはおしげちゃんが一番綺麗だと思うけどなぁ〜」
「「「リア充死ね!!」」」
脳筋トリオが口をそろえる。
「僕は柏木もしんべヱの彼女も、悪いけど全然好みじゃないね。」
「そうだねぇ〜兵ちゃんは自分に従順な典型的な女の子タイプが好きだもんね〜」
三治郎の言葉に頷く僕をみて伊助は若干苦笑いを浮かべる。
「今時そんな子そうそういないよ・・・。」
「兵太夫は理想高すぎだって。」
「だから付き合っても長続きしねぇ〜んだよなぁ〜」
金吾と虎若はやれやれ、といったように手を上げてみせる。
うるさいなぁ・・・
ほっといてよ。
「じゃあ、こんど僕慎ちゃんデートに誘おっかなぁ〜」
なにがじゃあなのかわかんないけど、
喜三太は嬉しそうにつぶやいた。
「まじで!?喜三太今回は教師!?しかも担任とか!?」
「喜三太様まじパネェ!!」
わーわーもてはやす団蔵と虎若に、喜三太は涼しげな笑みをうかべる。
「僕ってば見る目あるからねぇ〜みんなが慎ちゃんの魅力に気づいたときにはもう遅いかも・・・。」
その言葉にみんなは笑って見せたけど、
なんだか僕はむかついた。
だって、明らかにその言葉は僕へのあてつけだ。
―見る目ないね―
そう、喜三太に笑われた気がした。
あんなやつ、天地がひっくり返ったって好きになるもんか。
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