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帰りの道のりはまだ明るく




あたりもにぎやかだった。












だけど、私と喜三太の間には少しも会話はなく、




ただしっかりとつなぎとめられた手が、

二人の間で小さく揺れていた。












「・・・・まだ夕方にもなってないのにさ、

帰っちゃうのもったいないなぁー」






見慣れた田舎臭い風景を前に



やっと喜三太がポツリと声をもらした。











『いや、まぁね。ばれたのにさすがにこの格好では歩けんでしょ。』









サワリと前髪を揺らすやわらかい風に少し目を細めながら

そうこぼすも




やはり喜三太は納得がいかないのか


不満そうに突き出した唇がなんとも馬鹿っぽい。






「・・・ねぇ慎ちゃん。」





『なに・・?』






「僕って意外とめんどくさがりやなとこあるからさぁ」






いや、別に以外じゃないけど・・・






そんなこと突っ込んでも話が進むのが


無駄に遅くなるだけなので黙っておいた。






「無駄なことって極力したくないとか思うんだよね。」





『ふーん。』







そこまで興味の惹かれるような話でもなさそうだし。



緩い風に緩いしゃべり方の喜三太。


さらには繋がれた手から伝わる暖かい人肌に


少し眠気を誘われながら適当に相槌をうっていると








まだ少し遠いけど、道の向こうに小さく学園寮が見えてきた。























「だからね・・・まだ言葉はあげないよ。」
















『は?。』












その言葉の意味をあまり理解できなくて、



思わず喜三太の顔を見上げるも、



にこりととても優しげに笑みを返されただけだった。






















寮の前までたどり着けば、

足を止めた喜三太が不意に何かを呟いた。








「そもそも、やっぱ教師とだなんて、無謀だしね。・・・」









『え、なに?』






あまりにも小さく呟かれたそれは、


私の耳に入ることも無く無機質なコンクリートの地面にころがった。











「・・・きっと、今日のこんな出来事も今の気持ちもさ、

僕が大人になったらどうってことも無いような、

どうでもいいようなことになるんだろうなって思ったの。」






少し自嘲気味にこぼされたその声はこんどはしっかりと私の耳に届いた。








なんだ。喜三太らしくもないとんでもなくネガティブな発言じゃないか。








『えー、悲しいこというなよ・・・それじゃまるで

私がお前にとって何でも無いような人間みたいじゃないですか。』







「・・・そういうわけじゃないんだけどね・・・むしろ、・・・・」





途切れた言葉はその続きをつなぐことなく

喜三太の喉の奥に消えた。















むしろ・・・・なんだよ・・・・

















『・・・確かにさ。今は楽しいとか思う日常だって、

年取って大人になって、

その頃にはなんでもないようなことになってるのかもしれない。


まぁ、そういうことは確かにあるよ。


けどさ、それを今から言ってちゃよ。今を本気で楽しめないじゃん。』






「・・・。」







『お前の気持ちだってそうだよ。

何かを思ったり、感じたりするってことはさぁ、大事なことだから。

それを、どうせいつかこんなこと思わなくなるんだし。

なんて言って、その想いまで押し殺してちゃ、

何の面白みも無い人間になっちまうよ。』





だから、そんなこと言うな。







少し背伸びをして、喜三太の両の頬をつねってやる。






少しばかり辛気臭いしかめっ面をしていた喜三太は



ふぅーっと大きく息をを吐き出すと眉をハの字にさせて



小さく笑った。










「慎ちゃんってばさー・・・僕にどうしてほしいわけ?

そんなこと言われたらさ、困っちゃうじゃん。」







『若いうちに、たくさん困るのもいいんでねーの?』





「はぁー・・・そんなこと言ってさ、慎ちゃん。
後悔しても僕、知らないからねー。」













『いいよ別に。後悔しない人生なんてつまんないし。』



























だけどもさ。






『なんで私が後悔することになるの?』














そんな言われ方をされてはさすがに気になる。





思わず尋ねるも、緩くつねっていた喜三太の頬から



手をそっと離され










「ふふふっ、言ったでしょ?まだ、言葉はあげないって。」









と、意味深に微笑まれただけだった。











「じゃ、またね。」






小さく手を振った喜三太はそのまま私に背をむけて


学生寮の方へと向かって行った。




















『・・・なんだそれ・・・・。』










釈然としないながらも、まぁ、いいか・・・







と、楽観的に頭を切り替えた私は





あと少しだけ残された休みの日を満喫するべく





職員寮の自分の部屋へとむかうのだった。

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