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ガヤガヤとにぎやかな駅前繁華街。


広場には大きな時計台があり、待ち合わせには良く使われる。













問題の日曜日。





今日も今日とて、私以外にも多くの人間が

腕時計や携帯に目をむけ、待ち合わせているらしい人物を待つ。












時刻をいえば、今は8時50分



待ち合わせ時間の10分前だ。










実のところ、自分の格好に落ち着かなさ過ぎて


早めにこそこそと寮を出て



もうすでに20分ここで待っていたりする。







なぜか周りの視線がすごく気になってしまう。





それはまぁ、私の格好が変装に近いから

周りの人間を気にしすぎてしまうわけで・・・















一昨日の放課後、連絡したA子にロングのウィッグと、

伊達眼鏡を急遽借り。







それを装着しているのである。



服装もいつもの私とは違うものを選んでいて


完全に知り合いと出会ってもパット見分からないようにしている。









いや、これではむしろ今待っている山村すら

私に気づかないかもしれない。











まず、ゆるくカールしたロングヘアーに、黒縁の眼鏡。



それから、シンプルかつ、大人の色気が漂うというか・・・



まぁ、そんな感じの格好である。







要するに、今の私はA子が前に言っていた


保健室の先生みたいな感じ・・・?










いや、別に白衣は着てないよ?









こりゃ、山村が来たとしても、こっちから声かけんと気づかんな・・・








『・・・はぁ・・・・』








これからの今日一日のことを思って思わず深いため息を吐く。






もうヤダ。





なんか自分が情けなくて仕方がない・・・・















「おねーさん。」






ポン





と軽く肩をたたかれ、声をかけられる。






聞き覚えのない男の声に


ため息ついでにうつむいていた顔を上げ、振り返る。









「ため息なんかついちゃってどうかした?
俺20分前にもここ通ったんだけどさ。お姉さんそのときから
ここにいたでしょ?」






「彼氏に待ち合わせでもすっぽかされた?」と、優しい笑みを浮かべて

男が詰め寄ってくる。







『え、いや。私が待ち合わせ時間に早く来ただけ。』






「えーでもさ、こんな綺麗な彼女待たせる男なんてやめちゃえば?」












あー、やっかいなことに



どうやらナンパにひっかかってしまったらしい。





人のいい笑みを浮かべた男のルックスはなかなか悪くなかったりする。








『いや、まぁね。できることなら私もそうしたいんだけどね・・・』






赤の他人だからこそか、



思わず本音をポロリとこぼせば男も少し驚いたようで





「へ?」




と、これまた向こうも思わずこぼしてしまったらしい。








『ま、そういうわけにも行かないんですよ。

ぞうぞお引取りくださいな。』





シッシと、失礼ながらにも追い払うようなしぐさをしてみるも



男は余計に近づき、ついには後ろから肩を抱き寄せてきた。




『ちょっ、』





「いいじゃん。お姉さんも乗り気じゃないならさ。
これから俺とどっか遊びに行かない?」










あー、まじで勘弁してくれ




めちゃくちゃ意識して緩めていた眉間のシワが


元にもどってしまうじゃないか。























『あのさ「ごめ〜ん。まった〜?」・・・。』












男の、肩に置かれた手を払おうとした瞬間。






こんどは聞き覚えのある間延びした声が。











「ね。人の彼女に手出さないでもらえるかな?」













男よりもいくらか身長の高い山村。






威圧するように少しかがんで男に視線を合わせれば、




男は気まずげな表情を浮かべて

そそくさとその場から立ち去っていった。








『あんがと。』







「どーいたしまして〜慎ちゃん。」





ニコニコと笑みを浮かべる山村。






いや、まぁ。助けてもらったかね。




いや、いいんだけどさ。











『よく私って分かったな・・・』










思わずそうもらせば山村は細めていた目を開き、





一度私を見つめた。







「ん〜なんでかな?なんか分かっちゃった。愛の力かな?」







『ほー愛の力か。そーかそーか。じゃ、早くいきましょうかね。』









「あ〜信じてない〜。」







歩き出した私をすぐに後ろから追いかけてくる山村に


内心毒づく。








なにが信じてないだアホ。






ふざけてんのまるだしじゃねぇーか。






『ハイハイ。』





と、また軽く流しながら山村の一歩前を歩く。










山村も山村で、気を使ってるのか


歩幅の違うはずなのに、のんびりと歩き。




そのまま私の一歩後ろを歩く。









しばらくそーして特に会話もなく歩いていると



不意に山村が口を開いた。








「ねー慎ちゃん。」






『んー?。』










おそらくもう次にくる山村の言葉は大体検討がついている。









「なんで今日はそんな格好してるの?」










ほらね。







『・・・何でも何も。こんな状況を
知り合いに見られて勘違いされないため。』








「あ〜要するに変装かー。」






納得が言ったという様に、声を漏らしてから、



山村は少し歩みを速め、私の隣に来る。









「でもそういう格好も結構いいね。
慎ちゃんすっごい可愛くて綺麗だ。」











『っ・・・・』








度ストレートなほめ言葉に、不覚にも言葉に詰まってしまった。







か、かゆっ!!







やめろ!!かゆいから!!



そういうんマジでやめてくれ!!










なんともいえない表情で短くお礼を言えば



満足そうな笑みを浮かべた山村が、不意に私の手をとった。










『ちょ、おい!』







「えへへ〜。」












笑ってごまかせると思ってんじゃねーぞ!!







いきなりつながれた手にあせって振り払おうとするも




大きな山村の手にすっぽりと収められてしまい




離そうにも離れなかった。











「今日一日は慎ちゃんが僕の彼女だからいいでしょ〜?」








『はあっ!?』







何だその取り決めは。




今日、たった今初めて聞いたぞ。












『バカヤローパフェ奢るって約束だっただろーが。』










「えーそうだったっけ?まぁいいじゃん。」





何をすっとぼけたことを・・・







どうやっても振りほどけない手に、

ちょっと向きになって振り回せば




山村も楽しそうに腕をブラブラと揺らした。







いやいや、これではただのバカップルだ。







仕方がなく抵抗をやめて普通に手をつなぐことにした。










「ふふふーみんなに自慢しちゃいたいな〜僕の彼女ですって。」






みんなって言うのはいわずもがな、3組の連中だろう。





『絶対ヤダよ・・・まじで勘弁してくれ・・・。』





もうすでに疲れている自分に心の中でエールを送った。

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