そこに存在するための証明


「おおーーい!無事かー!?」
「班長ぉ!早くこっちへ!」
「リナリィー!まだスリムかぁい!?」
「てかアシーナとセティはどこに行ったんだよ!!!」


「おぉ……やってますなぁ……」
「もう…白目剥くしかないわ…」
「姉さんに激しく同意」







「ねぇさん…やばくない……?私はフラグを感じる」

科学班に野暮用があって姉妹揃ってフロアを訪れてセティが開口ひとこと。

拝啓 銀髪の主人公。
マテールのイノセンスは無事回収できましたでしょうか。

「妹よ………。姉は深く同感する……」

科学班フロアに広がる修羅場な光景。
マテールへアレンくんと神田が旅立って数日。
この二つの条件が揃えば待ち構えているのはたった一つの事件である。

「コーヒー飲む人〜?」
「「は〜〜い」」

あぁ、リナリーの天使の一声がこんなにも地獄の呼び声に聞こえるなんて。
諸手を挙げてリナリーのコーヒーに群がる科学班メンバー。
いつもなら私たちもその輪の中にコソッと入って美味しいコーヒーとお茶に舌鼓を打つのだが、姉妹揃って未来予想ができてしまったいま、私たちの脳内には「逃走方法」の四文字しか浮かんでいない。

「………」
「……」

そしてついに

「おーい、みんな起きてるー?」

巻き毛が、クソロボを連れて科学班に乗り込んで来やがった。

「よし、壊そうか」

一目見ることもせず、セティが腕まくりをして呟く。その貌は般若よりも恐ろしく、そして無である。

「待って、やめよう、巻き込まれないのが一番だよあのシリーズはまともなことにならない」
「いや、うん、そうだよね……。うん…」
「なに、はやく決断しよう、巻き込まれる逃げよう」
「……アレンくんとドタバタに巻き込まれるのもありかなって…」
「なるなら一人でやれ!!あたしは逃げる!!!!」
「アッ!くそ!見放したな!!待て!置いてくな!!姉さん!!」


ドン!!

あたし達姉妹が科学班から脱兎の如く逃亡を始めたところで、背後から爆音が鳴り響いた。
どうやら原作通りコムリンがコーヒー摂取をかましたらしい。

あぁ、リナリー。あなたはマッチョに改造されてしまうの…。おしい美少女だった……

「やばい、暴走が始まった!」
「コムリンの目的はエクソシストの改造だよね!とりあえずコムリンの目がリーバーさん達に向いてる間に上の方に上がろう!確かそれなら逆方向に逃れる筈だ!」
「さすが姉さん、ブックマンJr.に恋するだけある記憶力!」

そうしてあたし達は全力で教団本部最上階へとダッシュを決めたのである。
冒頭に戻る。

階下、フロア中央には昇降機に乗ってリーバーとアレンくん、そしてリナリーをコムリンから救出せんと科学班メンバーがてんやわんやしている光景が広がっている。
フロアを破壊しながら現れるコムリン。
昇降機に付けられた大砲から放たれるバズーカ。
いやほんとにカオスかよ。
「科学班てさ、実は頭おかしいの?」
「やめろ…リーバー班長に失礼でしょ……。
あたまおかしいのは室長だから…」
「でも姉さん、室長の命令には従うって約束しちゃったよね…」
「やめろ、言うんじゃ無い」

ちょうどいま話題のコムイが科学班に縛り上げられ、コムリンに差し出されるも逆にアレンくんに矛先を向けられると言う酷すぎる展開が繰り広げられている。

まるで、漫画やアニメをいつものように見ているかのように。

「こう言う時に、というかコムリンの事件に巻き込まれたく無いって選択して逃たのは私たちだけどさ、」

柵に肘をつき、階下を見下ろすセティがボソリと口を開く。

「こう、てんやわんやに巻き込まれずに平和に見れるほどに外野の立場になってしまうのはやっぱり私たちがイレギュラーだからだよね」
「……」

妹の言わんとすることがあまりにも分かり過ぎてしまって、あたしはそれに返す言葉が見つからない。

「さっき、科学班の誰かが私たちのことを探してくれていたみたいだけど、それっきり。コムイさんがアレンくんに矛先を向けるときに、私たちの名前を出してもおかしくは無いのに。」
「…それは、」

この世界に、教団という組織に馴染めていないだけならば良い。
けれど、もしそうじゃなくて、自分たちの選択次第で世界から一瞬で存在が消えてしまうことも、逆に残しすぎてしまうことの証明であるならば。

「……この先もあたし達は、慎重に選ばなきゃいけないってことだね」
「うん。」

あたしの言葉に頷いたセティだけど、きっとその胸には今、計り知れない不安が押し寄せている筈だ。
いつも輪に入っているはずの自分たちが、一歩外に出たらまるで誰もそれを気にしない。
この仮説が合っているとしたら、あたし達がお互いの存在から手を離してしまったら、二度と取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

とてつもなく、怖い。

「あ、リナリーがコムイさんを蹴落とした」
「決着ついたか〜〜」

けれど、いまその不安に囚われていても仕方ない。あたし達は、あたし達のやり方でこの世界に生き残っていかなければいけないのだ。
二人の間に流れた少し重い空気を振り解きたくて勤めておどけて言ってみれば、セティもそれに気がついてくれたのか、「あちゃー」なんて言いながらも柵にもたれかかっていた身体を起こした。

「アレンくんがヘブラスカのところに行く前、科学班に運ばれるはずだからそこでアレンくんにお帰り言おうか、セティ」
「ソウデスネ」
「ハッハッハ、励みたまえよ、妹よ」

未だ推しと顔を合わせて会話をすることに慣れないあたし達姉妹だが、お互いの推しならば強気に相手にできる。
むしろ推しを前にしたお互いを見下すのが楽しみになってしまっている。
……我ながらこの姉妹、仲がいいのか悪いのか。

「巻き戻しの街な〜…」
「ロードかぁ、姉さんどうする」
「どうするも何も…ここでロードに会えば即殺される気しかしないから…」
「できれば箱舟までは会いたく無いなぁ……」
「ノアには一生会いたく無いなぁ…」
「巻き戻しの街も回避したいねぇ」
「そうだねぇ」

てくてくてく、科学班フロアに向けて歩を進めながらゆるゆると会話を続けていく。
もちろん、肝心な会話を周りに聞かれないよう細心の注意を図りながら。
もちろんそんな気配に気を配るなんてこと、もとの世界にいた頃だったら絶対に出来ない。

あたし達姉妹は、まだ任務には十分と言えるほどには出動していないが、それでも何故か気配を読んだりだとか、走る速さだとかの能力が驚異的に成長している。

これをあたし達は「トリッパー補正」と呼ぶことにしている。

このトリッパー補正、なかなかに有能で、例えば隣の部屋に何人いるだとか、配置はどうなっている、というのも分かる。
元の世界にいた頃では考えられない。
ちなみに先にこの補正成長に気がついたのは妹である。当たり前である。
妹は賢いのだ。

「今日の〜任務は〜何かな〜!」
「最終的にはそこにいくよねぇ」

長い道のりを経て、科学班フロアについたあたし達。
コムリンに寄って破壊されたであろうボロボロの扉をあたしが開き、それに続いてセティが入ってくる。

「お疲れ〜!」
「あ、セティにアシーナ。いままで何処にいたの?大変だったのよ?怪我はない?」
「リナリーごめん……あたし達は早々に逃げました……」
「……まぁ、それが正しい判断よね…」
「コムイを蹴り落とすリナリー、かっこよかったです!」
「セティありがとう」

中央のソファに寝かされているアレンくんと、彼を看病していたらしいリナリー。
あたし達姉妹を見るなり怪我の心配をしてくれるなんてさすが姉妹だわ。
遠くではトンカチで修理する音が響いている。

「アレンくん、すっかり疲労困憊?」
「そうみたいね」

リナリーが、桶に浸したタオルを絞ってアレンくんの額に乗せてあげればタイミングよくアレンくんの目が覚めた。

「ピャッ」

そして奇声を上げあたしの背後にかくれたセティ。

「リナリー…。それにアシーナと…セティ」
「やっほー、アレンくん。久しぶり。」
「おお、お、おはよう、ございます」

リナリーが、混乱するアレンくんへいままでの経緯を簡単に説明する。
そして、彼のコートに入っていたというイノセンスを手渡し、ヘブラスカのところに持っていくように促した。

「ところでお二人は無事でしたか?」

うんうん、原作通り、と二人を見守っていれば突如アレンくんがあたし達姉妹を下から覗き込むようにして尋ねてきた。

うぁお……顔が………良い…………

「うん、大丈夫。ね、セティ」

あたしの背中に隠れているセティを前に出す様にして返答する。
ほら、妹よ、勇気をだせ。
「……」

「セティ?どこか痛みますか?」

俯いているセティ。
背中に触れているあたしには分かる。震えている。おそらく推しが目の前にいるプレッシャーで。
しかし、ここで勇気を出さずいつ出すのか!!
と気合を入れるように背中をポン、と叩いてやればセティは弾かれたかの様にして顔を上げる。

「だだだ、大丈夫!!あ、ありがとう!!そそ、それから、おかえりなさい!!!!」

「た、ただいま……」

おや?
いま、アレンくんの表情が……
と微かな違和感が胸をかすめたがそれを攫っていくかの様に、フロアが賑わい始めた。

「もー!なんで料理長のアタシが大工しなきゃなんないのよ!!」
「人手が足りないんスよ」
「あんた達、朝ごはん抜きだからね!!」

ジュリーさん率いる大工集団の登場により、あたしが抱いたアレンくんへの違和感は消え去ってしまった。
なんか惜しいことをした気がしなくもないが、いまはアレンくんに勇気を出して話しかけた妹を労おう。
頭を撫でてあげる。

「やば…イケメン……」
「そうでしょ」
「姉さんじゃないから。アレンくんのことだから」
「はいはい」


「「おかえり、アレン」」

科学班のみんなが一斉に声をかける。

この先、彼にとって帰る場所がここになる。

なんて素敵な、第一歩なんだろう。そんなことを感じた。

「そうだ、さっきアシーナとセティを室長が探してたよ」
「お、まじか。なんだろ」
「さぁな。気をつけて行ってこいよ」
「うん、八つ当たりされない様に気を付けます」
「いってらっしゃーい」 

そしてあたし達は、この物語の歯車がちゃんと回る様に、選択をしていくのだ。




「あ、アシーナの部屋壊れてたよ」
「嘘だと言ってよジョニーー!!!」
「私の部屋においで」
「セティがイケメン……」

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