背中に触れるのは


今日、この物語の主人公が現れた。
白銀の髪を持つ彼はリナリーと共に一通りの案内を受けた後、自室に戻ったはずだ。

先程まで地面に蹲り使い物にならなかったセティも今はある程度落ち着きを取り戻したため、あたし達も一度部屋に戻ることにした。
大体二人一緒に行動してるあたし達はどちらかの部屋で二人揃って生活してることが多い。今日はセティの部屋にお邪魔する。

「無理…ほんと無理……やっと姉さんの気持ちがわかった…これはしんどいわ…」
「そうじゃろそうじゃろ。貴様、初日にあたしにした仕打ちを後悔しろ」
「ほんとにすみませんでした…」

セティが溜息をつきながら淹れたての紅茶をあたしの前へ静かに置く。
自身もあたしの向かい側に腰かけたセティはそのままテーブルに突っ伏して懺悔タイムに入ったようだ。
初日、あたしをラビの真後ろで歩かせたことを後悔しているらしいが、いつか仕返ししてやるから待ってろよ。なんて算段を立てつつセティが淹れてくれた紅茶に口をつける。
美味しい。

「クッキーがあればなおよし。」
「わかりみ深い…。けど姉さん今はそんなこと言ってる場合じゃないよ…」
「お、本題に入ってもいいの?」
「いいよもう……これ以上は…アレンくんカッコ良さすぎて死にそうだけど先に進まないのは時間の無駄だ…」

はぁ〜と大きなため息をつきつつ身体を起こしたセティは紅茶の入ったマグカップを手に虚ろな目をする。この妹は猫舌だから熱々の液体を飲むことが出来ないのだ。

「じゃあ、本題に。まず、アレン君が来たということは早々に神田と二人でマテールのイノセンス回収に向かう筈。そこでレベル2と遭遇するはずだよね」
「うん。教団にとってはじめてのレベル2との接触…のはずだった」
「でも、先日の任務であたし達はレベル2と遭遇してしまった」
「報告書には?」
「書いてない」

物語通りに行けば、アレン君と神田がマテールでのイノセンスを回収した後、アレン君は神田と別れそのままAKUMAの噂を流し千年伯爵に目をつけられた少年と出会うはずだ。
もしあたし達がマテールに同行するなら、あの人の皮を被り偽造するAKUMAと対峙せねばならない。
アレン君の寄生型イノセンスが進化し形状を変えることによって勝利を収めた戦いにあたし達が行って無駄な戦力増強を図ってしまえばそれこそ物語にどこまで影響するかわからない。

「出来るだけアレン君達主演が進化…新しい力をつけるイベントに影響を及ぼしたくないってのが本音だよね」
「んんん…アレン君の初任務についていけないのは非常に惜しい…ッ」
「はいはい」

つまり、今回の任務には出来る限り参加しない方向で話を揃えておかねばならない。

「断る理由をどうするか…」

あたしは思案しながら紅茶に口をつける。
昔からの癖で、勉強とかゲームとか頭を使う時にはお茶か紅茶を飲みながらじゃないと落ち着かないのだ。
と、セティがふいに口を開く。

「昔から思ってたんだけどさ」
「なに?」
「姉さんって黙ってれば絵になるよね」
「お、おう…」
「断る理由は…その期間に私たちも別任務を入れるか…教団から外出を入れるかが無難だと思うんだけど」
「さらっと流したな、自分で話を振っておきながら」
「いや、なんか返答に困ってたし」

この妹、時として有能なのか適当なのか不明な発言があるぞ。
たしかに、マテールへの同行を断るにはセティが提示した2つの案が確実ではある。
けれど任務内容や時期なんてあたし達エクソシストが選べるものではないし、外出中に任務があるといって呼び戻されるかもしれない。

「んー、コムイさんへアレン君の戦力を測るのと神田との相性を測るためにも〜って適当な理由で説得した方がそれっぽいかも…?」
「ナイス姉さん」
「おそらくセティ単体で任務に加えられることはないだろうし、もし万が一マテールの任務に呼ばれたらあたしが説明する。…それでもセティだけ呼ばれた場合は…できる?」
「大丈夫!」

任せて、と頼もしくグッジョブと親指を立てたセティはようやく紅茶に口をつけた。
ちょうどよく冷めたらしい。

「よし。じゃあマテール任務を回避できれば同時にアレン君が街で千年伯爵と遭遇するのにあたし達が干渉することはないね。それが終われば一旦アレン君が帰ってきて…」
「……」
「……」

「「コムりんかぁ〜〜」」

二人揃って椅子の背もたれに寄りかかる。
あの事件は漫画で見てた頃なら笑いながら傍観出来ていた。
リナリーとアレン君かわいいな〜なんていいながら読んでいたがいざあの事件に自分たちが巻き込まれると考えるとゾッとする。

「くそコムイ…しょうもないもの作りやがって…」
「先を知ってるって酷だね…」
「……むしゃくしゃするし稽古場行こう」
「賛成」

こうしてあたし達は現在ではぶつけようのない、未来のコムイさんへの殺意を消化するためセティの部屋を後にした。





「こりゃまた、仲良し姉妹のおでましさ」
「ン゛ッ」
「はい、姉さんアウト〜」
「アシーナ、大丈夫?」

セティと稽古場へ赴けば、そこにいたのはラビとリナリー。
今日も相変わらず顔面偏差値高いですなぁ!

ラビがあたし達を見つけこちらに近寄ってくるためセティの後ろに隠れる。
セティは死んだ目で虚空を見つめている。
そんなあたし達を心配してラビの後ろからさらにリナリーが近づいてくるがやめてください、美人とコミュニケーションなんてコミュ障、未だにハードル高すぎる。

「ごめんねリナリー。姉さんほんと重度のコミュニケーション障害で…」
「もうアシーナに関してはコミュニケーションとかいう問題じゃねぇと思うけど、な!」
「ぎゃあああ!」

セティの後ろ、もといセティの背中にしがみついていたあたしの背後に周ってきたラビはあろうことかそのままあたしの首根っこを掴むとそのまま猫よろしく持ち上げた。

「ちょっと、ラビ!アシーナが驚いてるよ!」
「だずげでぇ〜い゛や゛ぁ゛〜」
「大丈夫、リナリー。姉さんにはあれくらいの荒治療がちょうどいい」
「そうなの?」
「「そうそう」」

ラビとセティが声を合わせて同意する。
やめて、あたしをいじめないで!!

けれど天使なリナリーは悪魔な二人の肯定を純粋に受け取り、あたしの方を振り返ると
「二人がいうなら大丈夫だとおもうけど…。なにか困ったことがあったらいつでも言ってね!」と天使スマイルを送ってくれた。
いま!!困ってるのはいまですリナリー様!!!

「それはそうとセティは英語がどんどん上手になるわね」
「え、ほんとに!?そう言ってもらえると自信つくなぁ〜」

あぁ、リナリーとセティが遠くへ行ってしまう…あの二人、イノセンスの形状的に手合わせしやすいんだろうなぁ………
軽く現実逃避を始めた矢先、耳元でラビが「なぁ」と呼びかけてきた。

「ぎゃあ!」
「……」
「ごめんなさいごめんなさい!下ろしてください神様ラビさまビックリしただけです!」
「はぁ…」

呆れたような目をしたラビは静かにあたしを地面に下ろしてくれた。
こ、怖かった…160cmが約180cmに持ち上げられるって20cmくらい浮くのね…そして近すぎた……。

「あ、ありがとう…」
「お前はいつになったらその挙動不審が治るんさ」
「貴方達の顔面偏差値が高い限り永遠ですかね…」
「たまに一緒に任務に行くときは、まぁそこそこに距離取られつつも戦闘になればちゃんとコミュニケーション取ってくれるよな」
「…それは……生きるのに必死すぎて、ですね…」
「まぁ、それもあるだろうな」

けど、と彼が言葉を続ける

「前にも言った通りここでひとりぼっち精神は通じねぇんさ。ついおたくら二人が来るまでリナリーと話してたんだけどな。二人が馴染むにはどうしたらいいかってさ」
「まじか…」
「マジ。やっぱリナリーは女の子同士だし余計に心配みたいさ。…もちろん教育係のオレも。立場上深入りはできねぇかもしんねぇけど、係だからにはやることはやるつもりだぜ」

ラビがポンポン、とあたしの頭に手を乗せる。
なんかデジャヴだ。

「入団当初よりはコミュニケーション取れるようになったし、任務も一緒にこなせるようになったからな。次はご飯を食べれるようになるといいな」

…バレてた

「リナリーが訓練でお腹減らしたあとに、ジュリーお手製のお菓子でお茶会するって言ってたから、さっさとあの二人に加わって運動してこい」

ラビはそういうと、稽古場を出て行こうとあたしに背中をむける。

「あれ、訓練、しないの…?」
「オレこれからじじいと任務なんさ〜」

ひらひら、と手を振って離れていく背中。
まじでこの背中好きすぎてしんどい。

「えっと、ら、ラビ…!」
「んー?」

歩く速度を緩めて肩越しに振り返るラビにあたしは勇気を振り絞って声を出す。

「あ、ありがとう…!気をつけて!」
「おう!」

あたしの言葉を受け取ってくれたラビがニカッと笑って去っていく。

環境が変わった影響で食事をまともに摂取できなくなったことに気づかれてたのは大きな驚きだったけど、心配してくれたことが嬉しくて。
セティにも心配されて、最近は少しお粥を食べたりなんかしてたけどエクソシストの運動量に比べたらカロリーは全然足りてないからここ最近は痩せていく一方だった。
団服の生地が結構厚いから込ませてると思ったんだけどなぁ…。
ラビが去って行った方向を見つめる。
アレン君が教団に来た頃にラビは本部にいなかったはずだから、きっとこれはわずかな誤差のはずだけれども。
わずかな不安より今はラビへの感謝が大きくて胸がいっぱいだ。

「姉さん、こっちおいでー!」

少し離れたところからセティが手を振ってあたしを呼ぶ。
その隣でリナリーも微笑んでいる。
ラビから話を聞いてしまったからには少しでも食欲が湧くように運動しなければ。

「あい、今行きます〜」



「アシーナは寄生型よね」
「姉さん防御硬いから殴り甲斐あるよ」
「まっっって」

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