そこそこイノセンスを操ることになれて、唯の一般人だったあたし達姉妹はついにAKUMAと戦う術を身につけた。 リナリーやラビ達と任務に出かけることもしばしばで、今もリナリー、セティ、あたしで出向いた任務から本部に帰還してきたところである。 「……つ、疲れた…」 疲労でバッキバキになった身体を引きずり自室に戻る。 この後は報告書を仕上げる仕事が残っている。 英語で書かなければいけない報告書。 いつもなら教育係のラビの指導のもと仕上げていくのだが、今ラビは別任務で本部にはいない。 初めて一人で書き上げる報告書。 正直英文で書く気力は残っていないがそれでも最後の気力を振り絞って書き上げることに専念する。 「えぇっと、イノセンスは回収できて、AKUMAと交戦…」 先の任務では特に大きな被害なく、任務を達成することができた。 ただ、一つイレギュラーというべきはこのタイミングでレベル2のAKUMAと交戦したことだろう。 本来ならばマテールでこの物語の主人公が遭遇するべき相手。 幸いその現場にリナリーが居なかったが、あたしとセティは思いっきり進化したAKUMAと『こんにちわ』をした。 「……めんどくさいし書かなくていいかな」 まだあたし達にゴーレムは造られていないから、あの場にいたあたしやセティが他に伝えなければ、物語の然るべきタイミングで彼らは知ることになる筈だし。 「ただ気になるのは……」 とあるレベル2のAKUMAが残した言葉。 《イレギュラー ハ 認メマセンヨ ![]() 恐らくあの言葉は千年伯爵からのメッセージ。 イレギュラー。つまりは異端者。 この世界にあるはずの無い存在であるあたし達のことで間違いない。 AKUMAは千年伯爵の目であり、耳。 初めてこの世界でAKUMAに囲まれた時にすでにあたし達の存在は千年伯爵に伝わっていたということだ。 「どうするかなーー…」 椅子の背もたれに思いっきり体重をかけて踏ん反り返る。 …考えたところで後々千年伯爵と戦わねばならないことは変わらない。 とすれば。 「まぁいいっか!!」 報告書には当たり障りのないことを書いておこう。 嘘はつかず、かといって全ての真実を伝えるわけでもなく報告書を仕上げるべく、疲れた脳みそを再び動かした。 「班長ー。リーバー班長……」 あれからなんとか報告書を仕上げ、提出するべく科学班を訪れた。 リーバー班長を呼ぶが一向に彼の返事がない。 おかしいなぁと思いながらフロアを見渡すと、一角に人だかりを発見した。 「班長ーーーいるーー?」 「あっ、アシーナ!」 「やぁ、ジョニー。リーバー班長は…」 「姉さん!!」 「やぁ、セティ。班長…」 「やばい!やばい!!」 「ちょ、セティ…!アシーナ、セティを止めてぇ!!」 ガン無視。 なんなの。妹まで! 何故かハイテンションスイッチが起動し、興奮気味なセティとそれを落ち着かせようとしているジョニー。 あたし、用があるのはリーバー班長なんだってば!! キレ気味に人だかりの中へ視線を向ければ、発見した。 最前列にいた。 「班長ー!!!」 「ん?」 やっとあたしに気づいた班長は肩越しに此方を振り返ると、悪い、という風に片手を挙げた。 「報告書か?すまん!ちと今は手が離せないもんだから、その辺に置いておいてくれ!」 そういうと彼は再び視線を前に戻してしまう。 なんなのなんなの? 気になったあたしは人を掻き分けて班長の元へと向かった。 尚、妹は後ろでキャーキャー言ってる。 ……モニターを囲む科学班。 モニターを覗き込むように見ているリナリー。 そしてキャーキャーしてる妹…。 どうしよう。なんとなく分かってきた。 リナリーの横からモニターを覗き込む。そこには案の定、金のゴーレムを連れた白髪の少年が映っていた。 「物語が動き出す……」 「うん?なんか言ったか?」 「なんでもない」 班長の問いかけをすかさず誤魔化す。 やっと、彼が現れた。 ここからの先を考えると安心出来ることではないのかも知れないけれど、物語が順調に進んでいる印である彼が現れたことに安心を覚えずにはいられない。 (……これで、あたしやセティがこの世界の歯車に及ぼす影響はまだ小さいと証明できた) 自分達の存在がこの世界に及ぼす影響が未知数である今、《知っている通りに物語が進む》という指標が絶対不可欠である。 彼が現れたことでその指標はぐっと近いものなったのだ。 「セティ!」 「姉さんんんんん!!!」 「落ち着こうか。リナリーが迎えに行くって。どうする?」 「待つうううううううう」 この妹、使い物にならんぞ。 取り敢えず彼がリナリーに本部へ連れてこられた時に挨拶出来るように妹を玄関口まで連れて行こうと思いました。 「アレン・ウォーカーです。よろしく」 「アレンね。あたしはアシーナ。こっちは妹のセティ。本部にいる日数でいうならあたしらの方が少し先輩だろうけど…。戦闘においてはアレンの方が先輩だろうし、気を使わないでね。よろしく」 玄関でリナリーがアレンと神田を回収してきたところに合流した。 アレンをセティを出迎え、握手をする。 ちなみに神田とは隣同士で(無理やり)お昼ご飯を食べるくらいには仲良くなりました。 バンバンバン 「あの……」 「なに?」 「セティ…は何を…?」 「〜〜〜〜〜!!!」 「………気にしないで」 先程からあたしの背中に隠れてバンバンと背中を叩いてくる妹。 痛い、痛いぞ妹よ。 自分の身長を優に超える鎌型のイノセンスを振り回してる自分の腕力を自覚しろ。 そんな妹のことを心底心配しているような視線でアレンが覗き込む。 …本当に君は優しい人ですね…。 この場にラビがいたならば間違いなく「似た者同士の姉妹さ…」と呆れたように言ってくるだろう。 それほどこの妹はいま、使い物にならない。 「取り敢えず、今からリナリーが案内するんでしょ?気にせず言ってきて」 「あ、そうだった。すみません…」 「いえいえ〜。これからよろしくね」 「はい!」 この後彼はコムイさんに会って、麻酔を打たれて、ヘブラスカに会うのだろう。 あたしらもこの本部に来て2日目くらいにヘブラスカのチェックを受けた。 流石に生で見るヘブラスカには驚いて暫く呆然としてしまったけれど、彼女もとても優しい存在であることに変わりわない。 身体中を探られる不思議な感触を感じても悪意がないことは分かってるから我慢できた。 ちなみにあたしら姉妹のイノセンスとのシンクロ率は二人揃って89%。 おしい。あと1%で90%だったのに。 アレンとも接触することが出来て、この世界で過ごす基盤は出来た。 取り敢えず一安心で肩の力が抜けたあたしは、任務帰りに報告を書き上げた疲労も相まってとっても眠い。 「セティさんやーーい」 「〜〜ッ!」 「いつまで悶えてるの、ねぇ。もうアレンいないよ?あたし、眠いんだけど、痛いんだけど!!」 「〜〜〜!」 「おーーい!!!」 「ッ、姉さん!!」 「うおっ!?」 いきなり叫ぶ妹にビックリする。 しない方がおかしい。 「なに、次はなに?」 「………任せた」 「は?」 「無理、アレン君と話すとか、無理……」 今度は床にしゃがみこむ妹。 ホント、初日の自分を見てるみたいで面白い。 「ああ……、任された」 どこか遠い目をしてしまったのはしょうがない。 疲れてるのだ、あたしは。 座り込んで動かなくなった妹を半ば引きずるようにして部屋に連れ込んだあたしは、妹を放置してその後、死んだように眠りについた。 「不思議な女性でしたね」 「アシーナとセティのこと?」 「えぇ…。なんか…迷子みたいだった」 back ![]() |