現在あたしは現実を直視出来ずにいる。 隣には仲のいい妹が。 そしてあたしたち姉妹の周りには。 卵型をした不気味な出来損ないのガラクタのようなナニかが数十と浮遊している。 いや、正確にはナニか、ではない。 奴らは殺人兵器AKUMA。 千年伯爵により作られた者たちである。 けれど、それはあたしたちが生きる世界においては架空のものの筈であって。 こうして同じ空間にあたしたちとAKUMAが存在することなどあり得ない筈だったのだ。 つい、先程までは。 「……どうする、姉さん?」 「………ラビ」 「うん、聞いた私が馬鹿だった」 あたしより幾分かは真面目な妹が問うてきた。けれど、あたしの脳みそはどうやら現実逃避を始めたようでオレンジ色の髪の彼の名を口から発することしか出来なかった。 …なんかごめんよ妹よ。 「イノセンスが発動出来ればいたんだけど…」 「………」 妹の言葉にハッとする。 そもそもこの状況だ。厨二病とか何とか言ってられない。あり得ないことがあり得る状況にいるのではないか。 「んー、でもさぁ、適合者かどうか何て分からなくない?」 「姉さん……。それいったらお終いでしょ…」 「装備型なら尚更無理くない!?」 無理だ。 そもそもイノセンスの適合者を探すのだって骨が折れる仕事じゃないの!元帥達が各国を旅してるのは何のためよ!? 「だから…ってあああああああ!?」 自暴自棄になり始めた頃、あたし達の周りに浮遊していたAKUMAがジャキッと一斉に大砲を構えた。 それにいち早く気づいた妹は私の首根っこを掴んで現在地から脱出しようと奇声をあげながら走りだした。 「うわあああああああ!?」 「姉さんが真面目に考えてくれないから…!!姉さん実は奇声型のイノセンスの適合者でしたー、とかそういう設定持ち合わせてないの!?」 「はぁ!?なにその設定!!ウケるんですけど!?ってうわあああ、撃ってきてる、撃ってきてるー!」 「当たったら死ぬ!!死ぬううう」 只管走る、走る。 ここが何処の国か何て分からないけど、とにかく暗い道を走りまくった。 流れる景色を横目で見ればどうやらここは市街地のようだった。 「まって!姉さんは一人で走らないで!!方向オンチ!」 「誰が方向オンチだ!誰が!!」 「自分が通ってる学校から家まで帰ってこれない貴女のことだよおおおお!!?」 「あああああまだ追ってきてる!」 「姉さん!イノセンス!!発動!!」 「え、あ、は、発動!!?」 まともに働かなくなった思考が妹の言葉に乗せられて定番のセリフを叫ぶ。 もう、ヤケクソだった。 なのに。 あたしの背中から大きな、純白の翼が現れた。 「「えええええええ!?」」 あたしの言葉とともに現れたそれは左右に大きく広がると、バサリと一度羽ばたくような動きを見せた。 「え、飛べる?飛べる??」 「姉さん、脱出!!」 とにかくここから逃げるべく妹を抱えて翼に意識を集中させる。 今まで漫画を読みアニメを見てのうのうと生きてきたあたし達がアレに敵う筈ない。 「よし、とべーー!!」 羽は答えることなく、ただ、そのまま優雅に羽ばたくだけ。 「「まじかああああああ!!!!??」」 絶叫。 逃げることは叶わない。 ならば 「戦うしかないのか……!」 「嘘でしょ!?」 止めようとする妹を背後に隠すようにして羽を広げる。 うん、これなら操れる。 あたし達の少し遠くの背後にはいつの間にか、壁。 もう逃げ道はない。 覚悟を決めて目の前に浮遊する無数のAKUMAを見据える。 今度こそ、成功させる…! イメージは、一枚一枚の羽が刃となりAKUMA達を切り裂くイメージ。 「はあああっ!」 気合いとともに羽を操る。 まるであたしのイメージをそのまま感じ取ったように、背後の大きな翼は羽を一斉にAKUMAに向かって飛び散らせた。 「おぉ!!」 それぞれの羽はAKUMAにヒットすると的確に倒していった。 「やばい!!あたし、エクソシストになれる!!」 「良かったね!長年の夢が叶ったね!!」 AKUMAが全滅したことを確認して妹と喜びを分かち合う。 気づいたら知らない土地にいて、いきなりAKUMAに襲われて、不思議な力で敵を倒す…… 何処のトリップ小説ですかね 喜びの余韻に姉妹二人で浸っていたとき、突如聞き慣れたような、初めて聞いたような、そんな声が響いた。 「動くなよ。動いたら……切る」 「えっ、副長!?薄桜鬼!?」 「姉さん………」 back ![]() |