第三話


車の中、ゆれる外を眺めていたアオは、だんだんと空がしらけ始めるのを見ていた。


(きれい…)


アオは、この瞬間が好きだった。新たに来る日と共に、自分の気持ちも、なんだかすっきりする感じがするからだ。


この辻馬車にのるまで、何回か魔物と遭遇したり、森の中を歩き回ったりと、行動しているうちは、かなり眠たかったのだが、いざ寝ようとすると、昨日起こったこと、六神将の動きやヴァンのこと……

さまざまな考え事が頭に浮かび、やっと意識が沈んだと思ったら、すぐに目が覚めてしまうの繰り返しで、なかなか眠りにつくことができなかった。


「……ん…、あら…アオ?もうおきていたの?」


声に反応し、そちらを見れば、今、起きたばかりのティアがいる。
ふぁ…とあくびをしているところを見ると、よく眠れたようだ。


『おはよう、ティア。』

ティアはアオの隣に座っていたため、無声音でも十分聞き取れる。


「えぇ、おはよう。」
なんだかティアが返してくれると、うれしかった。



今、ティアに、自分と六神将のことを、話しても……大丈夫、な気がした。
もちろん、ティアがどういう立場にいるのか、もう一度、確かめてからだが。


『あの…、ティア。聞きたいことがあるんだけど…、いい?』

アオの真剣な表情をみてか、ティアも真剣な顔になる。



「なにが、聞きたいのかしら?…私に答えられることなら、答えるわ。」

『ありがとう。………ティアは、本当に、ヴァンや六神将と、仲間でも、情報を共有したり…という事はないんですね?』

「……えぇ。そうよ。」

『そうですか…』

そこかホッとしたようなアオを見て、ティアは、このことが、彼女にとって、自分たちを敵と見るか否か、という大事なことらしいと気がついた反面、疑問も生まれた。


「…アオ、私からも、いいかしら?」

『うん…、私も、答えられる範囲なら…』

「ありがとう。……あなたは、なぜ、ヴァンという名を知っているの?それに、アオという名前、聞いたことがある。…どういうこと?」

この質問を聞いたアオは、驚きと、やっぱりか、とあきらめたような顔をしてうつむいた。
ティアは、その様子を見て、まだ早かったか、と罪悪感を覚えた、がここで引くわけにはいかない。



『………ティアがヴァンと敵対関係と信じた上で話します。いいですか?』

「えぇ。」

『…私は、もともと、六神将の、補佐、でした。二つ名は、“死風の歌姫”。ティアも、一度は聞いたこと、あるとおもう』


「えぇ…」


やはりか、とティアは確信した。あの戦い方、どう見ても一般人じゃなかった。

「ヴァンのことは…そういう立場にいたんだから、知ってて当たり前、ということでいいかしら?」

『すみません…、あと、あそこで倒れていた理由は、今は、聞かないでくれますか?』

アオが、悲しそうな表情でティアを見上げる。誰にだって、いまは話したくないこともある。当たり前だろう。



「えぇ。聞かないわ…それに、ありがとう。質問に答えてくれて。嫌なこと、話させちゃったかしら?」

『いえ……』

「そう?それならよかった。」

お互いのことを少しずつ、理解していった二人は、とっくに明るくなった外を見、その後は、たわいもない、世間話や、今までのアオの旅の話などにしばらく花を咲かせていた。














がたん






辻馬車が大きく揺れた。


『わっ……』

周りの人たちもだんだんと起きはじめ、残るはルークのみとなったころだった。

「…な、なんだ?」


先ほどの衝撃で頭をうち、それで起きたらしいルークが声を上げた。

「ようやくお目覚めのようね。」

『おはよう、ルーク。』

二人を見て、昨日のことを思い出したらしいルークがそうか、とつぶやいたのを、アオは聞いていた。


と、突然再び振動と共に爆音のようなものが聞こえた。ルークは必死に客車の窓にしがみついている。



アオもルークのほうの窓を見て………驚いた。


離れた馬車が攻撃されている。
大気にとどろく轟音にわずかに遅れて、周囲で次々と土が吹き上がる。


「お、おい!あの馬車、攻撃されてるぞ!」


「軍が盗賊をおっているんだ!」

御者が御者台から、砲撃音に負けぬよう怒鳴る。

御者の話によると、漆黒の翼という盗賊らしい。

そういえば、馬車に乗る前、勘違いされたような…と考えながら、車輪のひとつでも壊してやろうかな、とアオが術の詠唱に入ったときだった。





〔そこの辻馬車、道を開けなさい!巻き込まれますよ!〕





うしろから大声音のこえが響きわたった。

驚いたアオは、詠唱を中断してしまった。

そして、アオとルークは二人そろって息を呑む。

本で見たことある船のような形をした巨体を、二つ並べて柱のようなものでつなぎ、間に帆をはってある、陸上を走る巨大艦がそこにあった。

素材は鋼鉄なのか、それとも表面に鋼板が張ってあるだけなのかは分からないが、表面は太陽の光のように冷たく輝き、美しいとさえ思えた。


馬車の向きが変わったと思うと、巨大な鋼鉄艦が土ぼこりを舞わせながら脇を走り抜けてい
く。

備え付けられた砲塔が火を噴き、ルークが息を飲むのを離れていても感じた。









「すげ〜!迫力〜!!」

窓から身を乗り出し、ルークがその光景に見入ってるのを、アオはあきれながら見ていた。

隣のティアは少し迷惑そうだ。

そんなルークの反応を知ってか知らずか、鋼鉄艦は次々と火を噴く。


崩れた橋の向こう側、海峡の沿岸で水柱が立つ。


「すげぇ!すげ――」


様子を見かねたティアがルークの服をぐいっと引っ張って座席に戻す。
ルークはすねたけど。

でも、おとなしく座った。


ティアの瞳は何を喜んでいるの、といっていたが


「驚いた!」


すっかり興奮した様子の御者の声がふってきて、ルークたちは御者台の方を向いた。


「見たかい?ありゃマルクト軍の最新型陸上装甲艦タルタロスだよ!俺も前に一度、遠くから拝ませてもらうことはあったが、こんなそばで見ることができるなんて思ってもいなかったよ!」

「マルクト軍だって!?」





どうやら、ここはマルクト帝国の西グルニカのようで、首都バチカルに行きたかったルークとティアは、どうやら、間違えたらしい。
ティアとルークはなにやらもめている。

というより、ルークが一方的に攻めている感じがするが。


「土地勘がないんだもの。この辺りには来た事がないのよ。…あなたこそどうなの?」


「俺は軟禁されてたんだ!外に出たことねーんだから分かるわけがないだろう!」

ルークが壁をたたく、と

「なんか、変だな。あんたら、キムラスカ人なのか?」

今、マクルトと冷戦状態にあるキムラスカの人間だったら、敵という気持ちをはっきり感じることができた。



…どうしよう。アオが表情には出さないが、あわてていると




「い、いえ。マクルト人です。わけあってキムラスカのバチカルへ向かう途中だったの。」


ティアがすかさずフォロー。さすが。冷静だ。


「それじゃ、反対だったなぁ…」

信じたのか、御者の声が明るいものに変わる。

どうやらキムラスカへいくには先ほどの戦闘で落とされてしまったローテルロー橋を渡って反対に戻らなくてはいけないらしい。



『……どうする、ティア?』

「さすがに、グランコクマまで行くと遠くなるわ。エンゲーブで、キムラスカへ行く方法を考えましょう。…それとも、ここで降りる?」


『私は、全然平気だけど…』

「冗談!何言ってんだお前! …エンゲーブまで乗せてくれ。歩くのたりーし。」



アオ達は、エンゲーブという町へ一度向かうということを決めると、それぞれの会話に花を咲かせていた…というか、ルークがティアを質問攻めにしていた。



マクルトの兵器は、譜業でできてるのか、とか、マクルトがキムラスカ製のものを輸入しているかもという話とか…


「ダアトを通じて、マクルトに売られている可能性だってあるわ。」


「胸くそわりぃ…」




ルークは行儀悪く脚を大きく開き、腕組みをし、座席にふんぞり返ると唇を尖らせて鼻に皺を寄せた。















……♪……

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